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2010年11月15日月曜日

デザイン思考上級とは:シンガポール国立大学2011年2月開催予定ワークショップにむけて

  • 10:07  シンガポール国立大学の工学部から2月に集中講義依頼のメール。この大学の訪問教授だからまあお仕事だけど、7月に一度教えた若手のスタッフ十数名にデザイン思考上級編をとの依頼。自分たちで出来ると思ったら歯が立たなかったと言ってくるところがいいね。MITとか東大の博士号を持っている連中。
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  • 10:10  デザイン思考の上級編はハードウェアスケッチtinkering(電子工作)メンタルモデルを発見するユーザースタディ。顧客を見ながら開発をすることがポイント。アイデアを生み出すのがデザイン思考と思っていると大間違い。アイデアは方法を覚えると幾らでも出てくる。2日で身につく。
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  • 10:13  アイデアを形にすることは実は非常に難しい。作って考えろ、というが例えばいきなりC++でOpenCVをプログラムしても、作業が難しくて頭がしびれるだけだ。旋盤をつかっていても新しい形は分からない。「専門家」であればあるほど新しいことが出来ない。カイゼンはできてもね。
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  • 10:14  いまデザイン思考のワークショップをみて不安に思うのはアイデアをつくり、ダンボールや粘土やスケッチや劇でそれをしめすこと「だけ」がデザイン思考だとする動きだ。これはデザイン思考ではない。アイデア作りだ。逆説的だがアイデアは幾らでも作れる。だから人のアイデアを盗まなくなる。
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  • 10:16  アイデアをつくることが苦手だとアイデアを「盗む」。アカデミズムのトレーニングで引用をうるさく言うのは、人のアイデアを引用することと盗用することが同じ作業だからだ。自分のアイデアがどこから来ているのかを隠して人のアイデアを使ってはいけない。堂々と「引用する」。
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  • 10:19  20年も教師をやっていると、研究のアイデアの盗用があることが分かる。アイデアの盗用は最低である。だがアイデアは守れない。漏れたら終わり。故人であるが有名な評論家がある学者のアイデアを聞いて、その筆力でさっさと論文を提出して博士号をとった事件がある。
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  • 10:21  アイデアを評論家に話してしまった学者はぼんぼんの世間知らずで、そのアイデアで博士論文を書いて出版した評論家は技はもっているが「紳士」ではない。特許や論文での「剽窃」だけを問題とするが、実はアイデアの盗用が一番いけない。まあここで言いたいことは紳士たれではなくて、ぼんぼんへの喝
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  • 10:37  自在にアイデアをつくれるようになると、それを形にする技が必要になる。僕はアイデアを作ることが出来るようになったらそれを形にする技を持て、と教えている。これがなかなかね。でもアイデアは盗まれても文句は言えない。昔はアカデミズムは紳士の里だったがいまは市井。
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  • 10:39  アイデアは形にすると「私有」できる。論文や特許がそれである。創造性をおしえたあと、それを形にする方法も身に付けなくてはいけない。人のアイデアを盗まないという紳士の教えも大事だが、アイデアを形にするという筋トレも必要。デザイン思考は中級以降この問題をあつかう。
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  • 10:43  この筋トレはエンジニアリングだけでは不足である。アイデアが形になるまでにさまざまな作業が必要である。ここが胆だ。エンジニアの教育をうけていない人(僕もそうだったが)は特定の技術とかがあればアイデアは実現できると思う。だがそれは大違いだ。アイデアと実際に動く形の距離は大きい。
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  • 10:46  では動くものが偉いのか?そうではない。多くのエンジニアリングが動くと分かっているものを早くしたり強くしたりしているだけだ。カイゼン型。これもだめ。またただ動くだけのものに無理に意味を付けても駄目。意味と仕組みが一致していないといけない。
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  • 10:47  デザイン思考の醍醐味はアイデアと仕組みを繋ぐところを開発できることにある。飛行機を発明したのはライト兄弟と言われるが、それは空を飛ぶためのアイデアをいま僕らが考えている制御系をつくりだして、飛行機を作ったことにある。ここを思いつくことが非常に難しい。
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  • 10:49  僕が何度も繰り返している a rationaleとはここだ。概念をいれる箱あるいは枠組み。概念はものを作るための設計図。何を作るかがアイデア。実物大の模型をダンボールで試行錯誤して作るのはこの種類の作業である。機械工学を学んだ学生はこのあたりは身についている。
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  • 10:51  だが、今我々の生活世界は物理の領域を超えている。なので枠組み作りも機械工学だけでは不足である。VRとかARの分野が、物理学を応用する制御系の研究者(我が館先生や稲見さん)、電気の研究者(苗村さんとか)そして機械工学(「あのひと」とか)と多様にわたるのは、この変化の現れ。
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  • 10:54  記憶や知識や意味という世界が張り付いているのが日常世界だ。そこにアイデアを人が利用できる形で着地させる。様々な要素を繋いでいく枠組みのイノベーションがカギとなる。幾ら分析してもこの枠は見えてこない。だが勝手に作ってもだめだ。分析を利用する科学的方法が浸透する前の工学はこの世界だ。
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  • 10:55  作って考える。考えて作る。これは医学では臨床の知である。芸術家のアトリエもそうした場所だ。作家の仕事場も同じ。実は実験室もそうではないだろうか。実験装置がなければ実験もできなければ成果もない。装置つまり考える枠組みが決まればアイデアを流し込めばものは出来る。
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  • 10:57  つまり、装置の独創性が競争力を付ける。アイデアはある方法をもてば幾らでも作れる。枠組みの決まったものは資本を投入すれば幾らでも作れる。そして競争力が無くなる。だがあたらしい枠組み a rationaleを作ることが出来れば圧倒的に強い。アイデアが特許や論文になるときだ。
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  • 10:59  この視点から論文を見てみると、論文としてのa rationaleは明かしていても実際の製品とかサービスにもっていくときのa rationaleを明かしていない絶妙のものがあることが分かる。またその逆にまったく思っても見ないa rationaleを提示している大論文もある。
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  • 11:01  ワイザーのユビキタスコンピューティングの論文、エンゲルバートのマウスの論文、サザランドのデジタルペンでのインタラクションの論文、そうそう石井裕先生のタンジブルユーザーインターフェイスの論文も凄い。こうした a rationaleの提案をふくむのが本物。
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  • 11:03  デザイン思考の中級と上級ではこの枠組みを作る作業を行う。枠組みというとなんだか抽象的な図を思い浮かべるかもしれないが、それは枠組みを発見した後「清書」した形であって、もっとどろどろごちゃごちゃした作業の中から生まれる。この枠組みをつくるのがTinkeringである。
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  • 11:08  レーザーカッター3Dプリンターも大切である。またこの段階でメンタルモデルをしっかりと考える。出来てしまったものの市場を考えるのは非常に難しい。ソニーの盛田さんが研究所内でちょっとなにかできると、若い研究員に「友達にみせてこい」と言ったというのは有名な話。
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  • 11:11  これをしないから出来たものにたいして上司が「ビジネスモデルは、売り上げは」と聞く。やはり経営をあずかっているものはそう聞くだろう。だから最初から市場を想定して枠組みを考えないといけない。これも作っては使ってもらいを繰り返せばいい。
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  • 11:13  分析的思考は入らないと言ったがこれは科学的分析的思考であって、現状を観察してパターンを発見していくという作業無しには枠組みは作れない。これがデザイン思考で言う分析であり、その結果を使ってのモデルの構築を含む。こうした一連の作業はエンジニアリングに似ているが目的が違う。
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  • 11:14  これを総称してスケッチングと呼ぶというのが最近の流れだ。この技法については小林茂さんが『プロトタイプラボ』でまとめ、この秋積極的にワークショップを行って方法を公開、公共財にした。これを活用してアイデアをまとめて概念枠組みを作るそれをつかってユーザーがてにできるプロトタイプを作る。
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  • 12:15  スケッチングを繰り返していくうちになんとなく収斂していく。そして概念枠組みと概念がほぼ同時に出来る。そこから概念枠組みを抽出する。概念はそのままプロトタイプの作成の設計図となる。この二つが共存している状態をアラン・クーバーの方法論ではフレームワークという。
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  • 12:17  フレームワークは使いやすい言葉なのだが、どうも「フレーム」という言葉が学生には意味的に響いてしまい、ワークの方が希薄になり、システム概念図を作ってしまうことが多い。そのとき僕は下手なスケッチみたいなもので作られた完成予想図をフレームワークというのだと説明する。
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  • 12:21  別の言葉を用意する必要があるかもしれないが、いずれにしても概念枠組みと概念は別物である。これは論文においても開発においても同じ。いまある概念枠組みをつかって概念を使っても立派な研究だし開発だ。また概念をプロトタイプにすることも立派な研究だ。
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  • 12:22  プロトタイプが利用者の目的を満たすかも大事な研究となる。デザイン思考はアイデアが生まれて開発されて人々の手に渡り使ってもらえるまでの一連の流れを海だし制御する方法なのである。ここをふまえて、ワークショップの参加者の特性をみたりプロジェクトのチームの構成を考えたりする必要がある。
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  • 12:24  さて、この流れの最後にクーパーの方法論で言うところのdetailed designという領域がある。ここは普通のインダストリアルデザインやプロダクトデザインがいままで担当してきた領域である。出来たものをみて人に手に持ってもらうためにはこのレベルでのデザインの品質が大事。
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  • 12:27  だが前にODMという方法を採用している高級オーディオ社のB&O社の例を紹介したが、イノベーションのプロセスではこのレベルのデザインはいろいろと上手なデザイナーに発注して試して選べばよい。フェラーリが良い例である。デザイナーが変わってもフェラーリはフェラーリだ。アップルも同じ。
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  • 12:30  ソットサス達が始めたポストモダンは、デザイナーの仕事がdetailed designに限られており、概念枠組みが20世紀資本主義の大量生産プロダクトであることであった。新しい方法でものを作り普及させたいという衝動に製造設備が対応していない、つまりは概念枠組みへの挑戦だった。
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  • 12:31  したがってdetailed designにおいてはものやサービスの実際の製造の仕組みとのやり取りも必要となる。ここから新しい概念枠組みのアイデアが生まれることも多い。ものの提案を見ると「金型」のコストを考える、という視点からは新しいことは生まれないのだ。
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  • 12:33  というわけでデザイン思考の中級上級はなかなか複雑な仕組みを学んで行かなくてはいけない。アイデアを自在に幾らでも作れる能力がまず必要だ。これが初級。これをもとにユーザーのマインドモデルを想定してスケッチングを繰り返す。そしてフレームワークを作る。
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  • 12:36  そこからコンセプトを抜き出してプロトタイプの制作に入る。製造設備の問題をにらみながらプロトタイプの検証を繰り返し、上市する。ここまでを行うことがデザイン思考なのだ。慶應大学メディアデザイン研究科に入学すると初級は全員が必修。中級は僕のデザイン思考の授業で学べる。
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  • 12:38  デザイン思考の上級はKMDで僕が参加しているリアルプロジェクトで学ぶことが出来る。大学の他にコンサルティングでこの方法を実践して、差し障りのない範囲でこのTwitterでつぶやいている。http://okude.blogspot.com/にまとめてあるので興味のある人はどうぞ。
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