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2010年10月31日日曜日

公共圏、商業主義そしてバザール:村長さんの哲学について

  • Sat, Oct 30
  • 08:57  RT @SteFoyLesLyon: @NaohitoOkude ニッチ回避のため相互主観的に共有できるメンタルモデルの構築を物造りの基礎とする。ならば、公共の哲学と商業主義の妥協点もしくは融合点を追求することが現実的に有効であると理解していいのでしょうか。それはネガティ ...
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  • 09:00  そうだと思います。公共圏を権力に制御された場所ではなくてバザールのような市場として考える。商業もこの中で考える。この状態では全体主義と保守主義の危険からは逃れることが出来ますが、バザールでの勝者と勝者でない者との調整がポイントになる。@SteFoyLesLyon
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  • 09:04  Linuxの開発の初期の英雄である『伽藍とバザール』の著者のレイモンド氏がリバタリアニズムを主張していることは有名ですが、自分に生きのびていく技があればいい。その技を禁止することは許さない、とする考えです。@SteFoyLesLyon
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  • 09:07  僕はこの考え方はよく分かるのですが、いわゆる市場至上主義の人たちが弱者たたきにリバタリアニズムを使うのは解せない。税金ただ乗りとかそういった主張です。基本リバタリアニズムで弱者に関しては寛容になれないかと思うわけです。@SteFoyLesLyon
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  • 09:14  自己責任があり弱者にも優しいというのは村長さんの役割。村人の生活は全部責任をもつ。英語だとPaternarism。これって忘れられている美徳の一つ。明治時代から秀才を抜擢して近代化をしたけど、この美徳のない人が多いよね。殿様は下々のことは気にしない。@SteFoyLesLyon
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  • 09:18  既存の制度に頭が良いだけで抜擢されると、自分のことしか考えない。その思考がリバタリアニズムで正当化されると手に負えない。これがレーガン、パパブッシュの時代。息子ブッシュは喜劇だった。で話は村長さん。@SteFoyLesLyon
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  • 09:25  村長さんの美徳って僕らは知らないよね。習った記憶がない。このあたりを石川九楊という書家で思想家が『失われた書を求めて』で説明していて、「菜根譚」という本を紹介していた。アマゾンで検索すると沢山本が出ている。神がいない世界で平和に暮らす処世術だ。@SteFoyLesLyon
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  • 09:29  どれでも良いので手に取ってみると分かるが、漢字が多くてよく読めない。マンガ菜根譚もあるが、やっぱり難しい。漢字による知恵の継承が断絶している。こんなときは守屋 洋 さんの解説本がいい。松下幸之助版、サンリオの辻さん版とかいろいろある。@SteFoyLesLyon
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  • 09:31  戦後の国語教科書の再編で戦前の日本人のいろいろな知恵が断絶したが、えらそうな教養ではなくて普通の知恵も断絶している。まあ沢山本が出ているので読めばそのうち身につく。この本では君主とあるがまあ村長さん。普通にはグループの長。@SteFoyLesLyon
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  • 09:36  社会を動かすのは知恵や能力ではなくて人格と趣味の良さ。自己啓発型の人生指南本と大きく異なる。公共圏で商業主義と調和するとはこのイデオロギーを要求する。このイデオロギーが徐々に壊れていったのがアングロサクソン資本主義。@SteFoyLesLyon
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  • 09:41  ジャン‐クリストフ アグニュー『市場と劇場 資本主義・文化・表象の危機 1550‐1750年 』という面白い本がある。英国のルネッサンス期には演劇はストリート(市場)で行われていた。@SteFoyLesLyon
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  • 09:42  シェイクスピアの時代に劇場が出来たがそのデザインはストリートの舞台に囲いを付けただけだった。(グローブ座とかね)。そのうちに現代でみるような舞台になり、演劇のことは実世界とは関係ない夢の世界になり、いまのエンターテイメント等に至る。@SteFoyLesLyon
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  • 09:43  公共圏で商業主義が自分に相応しい振る舞いをみにつけながらビジネスを行う基盤が無くなっていくのだ。やがてこの仕組みが展開して19世紀からのアングロサクソン資本主義の大躍進となる。植民地主義も拡大する@SteFoyLesLyon
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  • 09:46  まとめると、公共の哲学と商業主義の妥協点はバザールにある。融合点を追求することはマーケット以外でのビジネスで可能になる。ネガティブな側面は、バザールをエリートによるマーケットでの合理的なマネー市場と同一視する政治イデオロギーが登場したときになると思います。
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  • 09:49  パターナリズムのインプリメンテーションの問題ともつながる。グループの先頭に立って戦略を実行して、部下をつぶさない(死なせない)マネージメントをする。これが必要。こうした猛者ではなくて、自分のことしか考えない能吏をトップに据える組織ではだめ。@SteFoyLesLyon
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  • 09:55  公共圏と商業主義の混在のネガティブなポイントは、えせ村長さんとか意気地無しの能吏が権力を持つこと。公共圏の維持を主張する考えはコミュニタリアニズムというのだけれど、ちょっと違う気がする。もっとスピリチュアルな文化的なものだ。その辺が菜根譚の面白いところ@SteFoyLesLyon
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  • 09:57  都市デザイン、エコロジカルデザイン、地球問題での「危機」の解決とかまあいろいろあるが、こうしたことを提唱している人の顔つきとか身振りとかを見て、文化とか生活とかのかおりがしないと、危険。まあ世界中のお利口さんが自分の文化的根っこの浅さを隠して正義を語る@SteFoyLesLyon
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  • 09:59  ロックが好きとか、なかでもメタルが好きとか、アニメにこだわっているとか、マンガに詳しいとか、お茶を習っているとか、絵をかいているとか、書をたしなむとか、武道をするとか、そういった文化的な素養村長的人格を作る。@SteFoyLesLyon
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  • 10:00  アングロサクソン文化でもこのことは気がつかれていて、南極探検を指揮して南極点到達をあきらめて2年以上漂流して全員帰還させたシャクルトンはその代表だ。またこうした人格を由とする組織行動学という分野もある。能吏ではなく人格者。これを持たないと駄目。@SteFoyLesLyon
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  • 10:07  ここまで書いてきて、急にいまの民主党政権が不安になってきた。まあこの話は長くなるからここまで。公共圏と商業主義がバザールで出会って、村長さんが出てくれば大丈夫と言うことです。(この項 完)@SteFoyLesLyon
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  • 補遺
  • Bebsonさんからコメントを頂きました。こざかしい知恵と本物の凄い知恵(智慧)をわけることは言葉使い上必要ですね。
  • Bebson HOCHFELD BebsonJP @SteFoyLesLyon @NaohitoOkude > 社会を動かすのは知恵や能力ではなくて人格と趣味の良さ。// この文はこれで良いです。ただ私は本物の凄い知恵(智慧)を持った人間に接して来ましたので、一般の知恵(知能)は大概、小賢しいモノだと感じている訳なのです。
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  • Bebson HOCHFELD BebsonJP @NaohitoOkude @SteFoyLesLyon これが正に私が常日頃感じていて、上手く言語化出来なかったオリジナルな『日本思想』です。有難う御座居ます。但し先生の『知恵』の前に『小賢しい』とユウ言葉を付け加えさせて頂きたいと思います
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2010年10月29日金曜日

イノベーションの収益化とイノベーションスパイラル戦略

  •  Thu, Oct 28
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  • 08:26  今日は12時にADTECH、4時30分にKMD。『デザイン思考と経営戦略』下書き最終まとめに着手する。さてこれからと思ったらコーヒー豆がない。ちょっと買いにでる。
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  • 09:18  イノベーションの収益化とイノベーションスパイラル:昨日は最終にさしかかっているS社とワークショップを行った。S社は大分前にアメリカのデザインファームに依頼したデザインを製品化直前に破棄して、自分たちでおこなったイノベーションで大成功した。そのデザインファームのアイデアに対して「違うな」と思った。
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  • 09:20  そう顧客に思わせただけでもこのデザインファームへ作業を発注した価値はあると思うが、問題はもう少し複雑だ。顧客をよく観察して、しっかりとしたビジネスモデルを作る。これがデザイン思考のコンサルティングの特徴だ。このやり方はメソッドとして確立しており、まあ誰がやっても最初はうまくいく。
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  • 09:22  うまくいくとは、見ていてあるいは経験して楽しいモノやサービスを作ることが出来る。創造性が発揮されて成果も見えるので作業も楽しい。ここまでが行ってみればデザイン思考の初級編だ。僕の『デザイン思考の道具箱』の前半部がそうだ。ここから先、つまりは中級編さらには上級編がある。
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  • 09:25  中級編はKMDのデザイン思考の僕の授業である。10回を超えるワークショップだ。いろいろな方法が試されているが、僕はDesigning for the Digital Ageで提唱されているgoal-directed designmental modelにまとめられる方法を使う。
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  • 09:27  方法論的にはインタラクションデザインに時間を取り入れる。つまりシナリオでのみ説明できるようなプロセスもデザインする。ゴールに到達するまでの道のりだ。ゴールとは僕の方法論であれば哲学である。哲学に到達するためにどのような機能をどのような順番で活用していくか、この流れが大切である。
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  • 09:29  顧客の為にというときには目的到達のプロセスを丁寧に作ることが大切になる。このデザインと物語性は深く結びついているので、ブランド育成にも役立つ。このあたりは小寺氏の本の紹介で詳しく説明した。だが顧客のためだけではモノやサービスを作る人は生きていけない。利益がいる。
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  • 09:32  利益の面からデザインを考える必要がある。これがビジネスモデルだ。モノを売るのが上手な人がいる。何でも売ってしまう。販売の達人だ。何故売れるのか。それは顧客の欲望を知っているからだ。欲望は僕の方法ではビジョンである。新しい商品やサービスを考えるときには目的達成の物語だけでは不足だ。
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  • 09:36  欲望をかき立てることで、大量にモノを消費させた。これが20世紀のビジネスだ。欲望は社会文化時代によって変わる。だが顧客の欲望に答えない限り物は売れない。モノが不足しているときにはそのものが欲しいという欲望が生まれる。大量にモノをつくり、モノが不足しているところで売る。
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  • 09:38  モノが不足していると思っていなければ、不足していると思わせる。理想の生活をすり込み、その生活と今の生活を比較させる。そして消費の欲望をあおる。資本主義のこのメカニズムはマルクスが看破したとおりだろう。出来てしまったモノを買わせる。これが広告・宣伝だ。
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  • 09:40  では、デザイン思考は欲望をどう考えるか。広告が顧客のセグメントをおこなって商品を売る活動と同じような方法を使う。ただし、モノはまだない。漠然としたイメージはあるだろう。さらにこのモノが提供するべき機能も見えているだろう。だがそれだけでは人はモノやサービスを購入しない。
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  • 09:48  デザイン思考はこの問題をセグメンテーションの方法で解く。マーケティングのセグメンテーションとほぼ同じであるが、一つ違うところがある。それがMental Modelだ。どのように顧客を分析しても数値では出てこない部分である。デザイン思考のセグメンテーションはここがキモだ。
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  • 09:51  エスノメソドロジー的に言うと、デザイナーが顧客とコミュニケーションを行っている状況の中で相互主観的に浮かび上がってくるものがメンタルモデルである。定義も出来ない。いわゆるアイデアマンという人が提供しているところだ。企業は開発をするとき一握りの著名なアイデアマン達を招く。
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  • 09:53  彼らのアイデアを仮のメンタルモデルとしてマーケティングリサーチをもとに得たセグメントに加えて商品やサービスとする。アイデアマン達は本を出したりマスコミに露出したりしているのでアイデアは刺激的だ。だがアイデアマンが顧客セグメントのメンタルモデルを表現することは普通は無理だ。
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  • 09:56  それはアイデアマンの生活世界が商品やサービスを売ろうとしている顧客と同じことはあまりないからだ。だが、だからといってデザイナーの自分の勘に頼ると、これもまた自分だけの世界になる。非常にニッチェな所にしかアピールしない。SONYの耳がぱたぱたするような音楽端末みたいになる。
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  • 09:57  どのような顧客に自分が作るモノやサービスを使って欲しいか、つまり商品のビジョンを作るためには潜在的な顧客のメンタルモデルが不可欠だ。だがそれを分析的に知ることは出来ない。勘で作るにはリスクが大きい。ほとんど失敗する。ではどうするか?ここでデザイン思考が登場する。
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  • 10:00  具体的な目的をもっている顧客の検討がついた段階で、その顧客が欲しいと思うモノやサービスを作ってみる。そこには自分が解釈した顧客のメンタルモデルがある。それをもとに簡単なプロトタイプをつくり顧客に使ってもらう。ユーザーテストだ。ユーザービリティテストではない。
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  • 10:01  顧客は大抵は満足しない。だが、そこがチャンスである。どうすれば満足するのか、どうすれば手に取ってくれるのかを現場で考える。そして作り直す。3回か4回か繰り返すと、説明する前から手を伸ばして興味を持ち、暫く使い始めると嬉しそうに人に説明を始める。メンタルモデルが組み込まれている。
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  • 10:05  その段階でメンタルモデルを意識化する。文章化しても良い。目的駆動でインタラクションの機能とプロセスをデザインすることはできる。だがメンタルモデル無しには、顧客が欲望するモノは作れない。
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  • 10:06  デザイン思考の中級のワークショップにおいては、モノやサービスをデザインして利益を上げる必要のある当事者にみずからメンタルモデルを作ってもらう。目的駆動とメンタルモデルをつくるのがデザイン思考の中級である。この方法を実行するにはさすがに粘土やダンボールや寸劇では不足だ。
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  • 10:08  いま書いている『デザイン思考と経営戦略』では実例としてKMDの博士課程の瓜生君が中心になって2年ほど開発したPANAVIの開発プロセスを実例として使う予定だ。このプロセスを実行するために必要な技術がある。列挙しておこう。
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  • 10:10  まず、造形の基礎、平面構成および幾何学的立体構成の知識が必要だ。またそれと並行して二次元のデジタル造形が必要。ベジェ曲線を通じて2D造形およびレーザーカッターでの加工技術の習得が必要である。大学でデザインを専門に勉強したことがあれば普通にこなせる。KMDでは必要に応じて教える。
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  • 10:12  ついで、自由曲線を用いて立体造形を描く技術と3DCGソフトをつかって自由曲面をモデリングして、それを3Dプリンターでの加工する技術が必要。これもKMDではリアルプロジェクトの中で集中して一気に教える。
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  • 10:14  次にインタラクションデザインの技術が必要だ。まずフィジカルコンピューティングは自在に行いたい。KMDではArduinoProcessingを用いてセンサとアクチュエータをつなげ、データを処理する方法を素早く教えている。
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  • 10:15  また単体では意味がないので、ネットワークにするため、XBeeによる無線通信、openFrameworksによる基本的なCVネットワーク通信を教えている。さらに、ハードウェアスケッチの技術が必要だ。まるで鉛筆でスケッチを描くように気楽にハードウェアを組み立てる。
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  • 10:18  ハードウェアスケッチは本当に大切だ。KMDのリアルプロジェクトでは、アイデアスケッチをハードウェアで前半後半にわけて、繰返しスケッチする。前半ではブレッドボードなどを用いて短時間で素早く作ることを重視する。この部分は最近ワークショップが多く行われている。
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  • 10:20  後半ではレーザーカッターを活用した簡単な機構設計プリント基板CADによるカスタム基板を組合わせてインタラクションの精度を上げていく。中級ではこのくらいのところまで行く。そんなにびっくりしなくても良い。実際、企業のデザインセクションと開発セクションから若手をあつめればいい。
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  • 10:21  一度あるところにデザインと開発から若手を出してもらい4回のミニワークショップを行ったことがある。このレベルの技術は直ぐ覚えた。この二つが一つのグループとしてコラボレーションを行っていないだけなのである。
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  • 10:22  ハードウェアスケッチングを繰り返しながらメンタルモデルを組み込み目的を達成するようなある程度の長さを持ったインタラクションデザインを行う。これが中級のデザイン思考である。
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  • 10:23  11月6日にKMDの説明会を日吉で行うが、そのときにすこし中級のデザイン思考について説明してみよう。http://www.kmd.keio.ac.jp/ デザイン思考の上級については後ほど。
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  • 10:36  デザイン思考の中級について詳しく説明したが、この上の上級がある。P&Gなどではここを実行している。その実体はよく分からないがS社の話をきいているとかいま見える。デザインファームが提案するレベルのコンセプトではビジネスにならないのだ。
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  • 10:38  ビジネスモデルと顧客価値あるいはブランディングをデザインで調整しているのがいまのデザイン思考である。テクノロジーはあまりこだわらない。プロトタイプを作るという意味でのテクノロジーは駆使するが、先端テクノロジーも製造テクノロジーもあまり重視しない。ここの重視は20世紀産業だとする。
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  • 10:46  だがiPhone4さらには最近のMacBookAirをみて驚くのは製造技術の先端性だ。実際に設計しているのは台湾のフォックスコムで製造は中国の工場だといわれているが、アップル側でほとんどの設計を終えている。デザイン思考で作業を進めていくと、斬新なコンセプトが出来る。
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  • 10:48  だがその先がある。これはイノベーションの収益性といわれている領域だ。ここにまで踏み込まないと、デザイン思考は経営戦略としての価値はない。製造設備そして当然流通販路まで関わってくる。デザインが産業にかかわるとはそう言うことなのだ。ここまで考えて過去を振り返ってみる。
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  • 10:54  黒木靖夫さんという人がいる。ウォークマンの開発プロジェクトのリーダーを務めた人だ。数年前に亡くなった。20年ほど前に富山県でお会いして以降、何度かお話をする機会があった。デザイナーであるにもかかわらず(?)SONYの取締役だった。
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  • 10:56  キャノンやシャープでもデザイナーから取締役が出た。振り返ってみると、あのころの日本の形は非常に良かった。東芝も含めて大量生産のデザインを担ってきた工業デザイナー達は要素技術と製造技術のまっただなかに入って顧客が喜ぶモノを作ろうとしていた。
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  • 10:59  一方でインハウスデザイナーのマネージメントに悩んでいた。ある程度の年齢になるとデザイナーがデザイナーとして役に立たなくなる。彼らにさらなる発想力を付けるにはどうすればいいのかを模索していた。名古屋デザイン博の動きもあり、海外のスターデザイナーが招聘された。
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  • 11:00  朴訥な日本のインハウスデザイナーは見劣りがした。僕はここでデザイン界は舵を切り間違えたと思う。まああとからは何とでも言えるけど。デザイン界はインハウスデザイナーのままヒーローデザイナーになろうとした。具体的にはデザインセンターあるいはデザインカンパニーの設立である。
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  • 11:03  高度成長を支えた能力のある工業デザイナーが各地の公共のデザインセンターの長になる。そして、企業はデザイン部門を別会社にしたり切り分けたりした。デザインに付加価値をつけようとしたが、本当はデザイナーはデザイン室を出て工場に入り、研究所に入り、サプライチェーンに参加すべきだった。
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  • 11:05  研究と製造と販売が混在していた現場で活躍するのが本来のデザイナーの役割だ。それは当時の黒木さんの活動が示している。だが、デザイン部門として独立し、会社として本体から切り離され、活躍の場所は形だけ表面だけになる。そして時代はインタラクションデザインとなる。
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  • 11:07  さて、そろそろ話に区切りをつけよう。会社には研究機能がある。先端の技術開発を怠っていると会社はじり貧になる。一方研究がいつまで経っても商品にならないとこれも無駄になる。だが何年研究すれば商品になるのか?本格的な研究が市場にでるまではノーベル賞をみていても10年以上かかっている。
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  • 11:10  SONYをみてみると、最初はともかく、研究所が本格的なイノベーションを起こしている。問題はそのイノベーション、これをブレークスルーイノベーションと呼ぶ、を商品化する方法だ。一つのイノベーションから収益を上げるには期間が長すぎる。企業はもう一つのイノベーションラインが必要。
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  • 11:11  SONYでいえば、ブレークスルーは井深さんでもうひとつのイノベーションは盛田さん・黒木さんだった。こちらをデザインイノベーションと呼んでいいだろう。この二つを組み合わせた企業が競争力をもつ。ブレークスルーからデザインへと流れることもあるだろうが、実際はデザインから始まる。
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  • 11:13  クリスチャンセンが述べたように、顧客の欲望をつかまえたイノベーションが市場に登場して利益を生み出す。それをつかってブレークスルーイノベーションに向かう。そしてそれを達成した後は、それを使って何度もデザインイノベーションを起こしていく。
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  • 11:14  技術主導のイノベーションとデザイン主導のイノベーションがスパイラルに動いたときに強烈なパワーが生まれる。日本の多くの企業は技術イノベーションにおいて卓越している。だがそのイノベーションから収益を継続的に出していくためには、デザインイノベーションを並行させなくてはいけないのだ。
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  • 11:17  ハイテクの開発能力のある経営者がこのことを理解したとき、デザインが会社組織の全体に行き渡る。これは黒木さんが直感して実行しようとしていたが、巨大組織となり、デザイン部門に注目が集まり、デザイン界の秀才があつまってきたSONYでは不可能になっていたのだ。
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  • 11:18  21世紀企業はテクノロジーイノベーションとデザインイノベーションのスパイラルと作る必要がある。テクノロジーの方は10年単位で動く話だ。20年単位かもしれない。デザインは1年から5年の単位で動ける。この二つを上手に組み合わせたときにイノベーションの収益化がうまくいくのである。(完)

2010年10月25日月曜日

小集団マネージメントとイノベーション

  •  小集団マネージメントとイノベーション
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  • はじめに
  • 小集団マネージメントと個人の能力評価についてtsuhi02さんと議論をしていたら、浅田さん@asada0から突っ込みが。現代社会の4つのイデオロギー を巡る話にもなりました。一匹狼で腕に自信のある人はリバタリアニズムの考えを持つのですが、それを社会に展開して新古典派の市場至上主義に結びつけてはいけない、というあたりは今後も大切になってくるところです。コラボレーションのマネージメントの思想と方法の奥は深いです。
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  • あと、いつも鋭いコメントをつけてくれる@Bebsonさんが「公共圏と個人のオリジナリティ」のエントリーにつけてくれた文章を補遺としてつけました。コラボレーションマネージメントがアメリカでノレッジマネージメントとして誤解されてしまったあたりの参考に。ノレッジマネージメントではなくて組織行動学として理解されるべき問題だとおもっています。このあたりもいずれは考えてみたいとおもっています。
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  • Sun, Oct 24
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  • 09:54  RT @tsuhi02: @NaohitoOkude 拝見しました。わたしが勤める会社では、ある製品開発チームを社内的にブランドにしています。共同作業は文書や論文、ブログのURL にいたるまで、チームロゴやチームの名前を使います。それでいて個人の成果の場合は個人が発表する ...
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  • 10:02  @tsuhi02 コメント、ありがとうございます。グループで仕事をしてグループで評価する。グループはプロジェクトが終われば解散。しばらくこれを繰り返していると、良い評価を受けたプロジェクトに共通の人間がいることが分かる。これが21世紀のリーダー。
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  • 10:04  @tsuhi02 エリートを選抜していろいろなチーム(固定)をマネージさせて能力を見るのが戦前からの日本の名門組織の特徴。イノベーションが必要でない場合はこれで結構いいリーダーが選べる。だがイノベーションが必要なときはそうはいかない。創業者がいるところは創業者が引っ張る。
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  • 10:19  @tsuhi02創業者が力を失えばそれでおしまい。これではマネージメントとは言えない。ではコラボレーションでイノベーションを行い、かつ能力のある人をリーダーとして育成できるか。この問題を議論するのが組織行動学。日本の会社の人事部は個人の能力を個人の成果だけで評価する。
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  • 10:21  @tsuhi02だが、実際の成果とリーダーの評価が結びつかない。そこで実行力を評価する方法がいろいろ工夫された。組織行動学的に考えれば、会社をかわりながらも毎回業績を上げていれば、グループをまとめて成果を出す能力に卓越している。チームを変えて次々の成果をだす。これもいい。
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  • 10:24  @tsuhi02つまりは、どんなチームでも(少々できが悪くでも)まとめあげて成果を出すというのが優れたリーダーなんだけど、それはいくつかのチームをマネージメントさせてみないと分からない。そしてチームの業績はメンバー個々人の能力とはあんまり関係ないがリーダーはいる。ここが肝です。
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  • 10:38  @asada0 評価されないと嘆くのはなぜ?>>それは組織に属しているから。一匹狼の評価は報酬と満足感。さすらいのガンマンとか心臓外科医とかITプロとか。戦国時代から組織はいかに人を評価するか。そして評価されるか。ここを間違うと、馬鹿が人の上に立つ。馬鹿が馬鹿を呼ぶ。  [in reply to asada0]
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  • 10:41  @asada0 個々から先は価値判断。個人の自立した能力を大事にすれば『伽藍とバザール』の著者のようにリバタリアニズムに向かわざるをえない。権力嫌いで高い能力を持っている人の生き方だな。で、体制迎合だと全体主義保守主義。個人的な能力の優れている人が社会を管理すればいいと考える。
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  • 10:44  @asada0社会支配のイノベーションを考えれば全体主義だし、イノベーションを否定すれば保守主義になる。個々人の能力の卓越性をあまり気にしないで権力嫌いが小集団主義というか思想的にはコミュニタリアニズムと結びついたあたりが僕には気持ちがいい。個人じゃないんだけど全体主義でもない。
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  • 10:46  @asada0内田樹さんがいろんな表現で説明していることもここに関係する。スモールチームで成果を出す方法。ここをしっかりと身に付けてね、というのがKMDのリアルプロジェクトなんだけどね。組織行動論の実践だし、いまだにアメリカの西海岸のベンチャーカルチャーから学ぶべきところ。
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  • 11:03  @asada0 僕はKMDに来るくらいの学生なら、自分が評価されないと嘆くより>>これは組織を作った後の話で、KMDではそうした気持ちをメンバーに起こさせないような組織作りを学ぶ、ということが大切だと思います。でもKMDでも、自分が評価されていると感じる小集団をつくることは大切。  [in reply to asada0]
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  • 18:13  RT @tsuhi02: @NaohitoOkude このやり方も実は、問題があって、「優秀だけども政治ができないチーム」は、淘汰されてしまう。なぜなら、自分のチームのプロジェクトに予算を取れない。たいしたことがなくてもチームブランディングがうまいチームに予算がつく。これ ...
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  • 18:13  RT @tsuhi02: @NaohitoOkude 「イノベーションを起こさなくても予算がつく」と言うことになると政治が主戦場になってしまう。チームブランドは皆がため息が出るほどの高い技術と品質をひねり出すことでブランドして存在するはずて、純粋な政治とは異なるものだ。
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  • 18:13  RT @tsuhi02: @NaohitoOkude とはいえ、そうならないのも現実。
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  • 18:16  @tsuhi02 イノベーションをするチームを別に作り、他のチームとはマネージメントの方法を変える。これがP&Gのラフリーがイノベーションマネージメントで採用した方法です。社内にイノベーションファンドをつくり、そこから予算配分をする。詳しくは『ゲームの改革者』を参考に。
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  • 補遺
Bebson さんのコメント...
『暗黙知』に付いての爺(ジジイ)の考察 @LeighCho > なるほど、言語仕様が思考を規定するという事ですか。チョムスキーの形成言語の考え方とポランニーの暗黙知の概念に何かヒントがあるような気がしていま す。// マイケル・ポランニー氏の『暗黙知』は『パンツをはいたサル』の栗本慎一郎先生の飯の種でもありましたね? @LeighCho ポランニー氏の『暗黙知』を経営学者の野中郁次郎先生が"日本化"して、職人が有するコツやカンなどの『暗黙知』は「形式知」化して行く事によって共有出 来るのだと仰りました。日本には、匠の技として『暗黙知』が溢れておりますが、実はこの『形式知化』は極めて難しい。 @LeighCho 前に申し上げた様に、人間の脳内空間には、意味を持った『情報単位』が、神経衰弱の時の図柄を持ったトランプ・カードの様にランダムにばら撒かれておりま す。これをKJ法の問題解決が如く、記憶や論理の糸で紡いで『使える未言語化構造体』にしたものが『暗黙知』なのです。 @LeighCho 以上は、日本語を使っている時の状態で、欧米の言語の場合には、この意味を持った『情報単位』は図柄を持ったトランプ・カードではなくて、圧縮されて折り 畳まれた音声lzhファイルなのですね。使用時には、広げて展開し情報をその都度、読み聞きして使用する事になります。 @LeighCho 日本語の場合には、この自分自身でも可視化可能な、TV中継データの様な未言語化構造体を、実況中継の様に言語化して初めて『形式知化』され、一人の人間 から他の人間へ伝達可能となり、『匠技』の集団共有や、更に共同作業が可能となります。しかし別の手段もあるのですね。 @LeighCho それが、この図柄を持ったトランプ・カードの『情報単位』を現場とユウ大広間にばら撒いて始める集団神経衰弱です。『情報単位』を《未言語化のまま》ダベ リングを記憶や論理の糸として使用し、集団で集めた無数の『情報単位』を紡いで行くのです。これを『腹芸』と言います。 @LeighCho この集団神経衰弱を、他の方(@gnsi_ismr)が『 機能を個々の参加者に帰属せず、全体としてその機能が実現されればよい、という観点でのインタラクションの分析枠組み』と表現されてます。カードは集団で 集めて意味のある使える束にしますから、個人には出来ません。 @LeighCho 川喜田二郎(1920-2009)先生のKJ法も個人の脳内の可視化情報を、巧みに組み立てて、新たな構造体を作成する発想法としてスタートしました。後 に集団内の問題解決に非常に役に立つ事が判明して、良好なコラボレーション感覚を作り出す武器として、活用されました。
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    2010年10月24日日曜日

    公共圏における個人とオリジナリティ:

    •  Sat, Oct 23
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    • 14:10  KMD中間発表。自分が好きでパッションをこめて伝えたいメッセージを見つける。それをどのように説得的に相手に伝えるか、それが論文のすべてだ。パッションが先に来る。これをわすれないこと。それさえあれば方法や形式は幾らでも教えることが出来る。だがパッションは自分で見つけないといけない。
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    • 15:15  KMD修士論文中間発表。英語で。一番の問題は語学力でも論理構築力でもなく、自分をまえにだして主張すること。しかし、日本人が個人を前に出してコミュニケーションをして生きていくことは本当に良いのだろうか?という疑問をもつ。昔のことだが、NECの8ビットチップをインテルが訴えた。
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    • 15:16  このときのことはまえにTweetsしてblogにまとめてあるが、裁判になってアメリカから僕の友人の弁護士が来日した。当時NECの部長だったS氏とタッグを組んで裁判に臨んだ。結局NECが勝ったのだが、そのときのカギはNECのエンジニアが自分で考えたと法廷で証言すること。
    •  
    • 15:18  ところがNECの優秀なエンジニアは僕が作りましたと言えない。友達と作ったとか、相談したとか言ってしまう。そうなると裁判官や陪審員はその程度の奴ならオリジナリティのある研究をする能力はないから、きっとインテルの特許を盗んだろう、と判断する。
    •  
    • 15:23  そこでNECの開発者に「自分で作った」と言わせることが攻防戦になった。で最終的には彼はそう証言して裁判に勝った。実際彼にはその能力があった。しかし、この技術者の中には誰ちゃんと誰ちゃんと一緒につくった、という気持ちがあったはずだ。これって非常に大事だと思う。
    •  
    • 15:26  英語でコミュニケーションしながらも、このコラボレーション感覚を保つ方法があるはずだ。この修辞学をどうにかしたいね。これはKMDの課題だ。一人のリーダー的な開発者がいて、その人が多くの人を酷使して、結果はその一人が独り占め。この形はどうも好きになれない。
    •  
    • 15:28  アメリカの著名な研究所で有名な研究者の下で働いていた日本人の研究者の中には面談をしてみるとまったく個性も知性もない人がいる。結局いいように使われていただけだ。だが、だからといって攻撃的で独裁的な研究者になれと言うのもなあ。コラボレーションの知性を集団として評価したい。
    •  
    • 15:31  そのときに、個を確立してレトリックを構成する方法のほかに、成果を表現する方法はないだろうか?この問題はアーレントが問題にしてきた公共圏の問題ともつながってくる。自己が集団から区別できない、という感情を上手に活用することが必要になってくる。(この項 完)
    •  
    • 15:40  RT @tamakiINADA: 同感です。でもこれは開発者だけでなく、プロジェクトにおいても言えるのではにでしょうか。色んなプロジェクトのお手伝いをしましたが、RT @NaohitoOkude 一人のリーダー的な開発者がいて、その人が多くの人を酷使して、結果はその一人 ...
    •  
    • 15:40  RT @tamakiINADA: @NaohitoOkude 結局、技術は酷使され、手柄は企画を立てたいわゆるプロデューサー的な方が持って行かれている。みんなでやったのにという想いは彼らにはない。実社会でもそうだが、それを変えたくて入学したのにエンジニアが報われる仕組みが ...
    •  
    • 15:43  @tamakiINADA そのためには人を引きつけるプロジェクトを仲間を巻き込んで生み出すことが必要なのです。なのにいまさらのように技術力を前に出す。昔言われたことがあります。金も権力もない人間が世の中を動かすには魅力を生むしかない。魅力をうむには自分のパッションを見せる。
    •  
    • 16:04  RT @create_clock: @NaohitoOkude この話はNECのV30裁判のことかと思いますが、V30は8ビットではなく16ビットマイコンです。あと正確には訴えたのはインテルではなくNEC側ですね。インテルは後から反訴してますが。
    •  
    • 16:06  @create_clock ありがとう。確かにNECが逆に訴えられてからの話でした。インテルに訴えられたのでNECが駆け込んだのでした。8ビットではなくて16ビットだったんですね。勘違いしていました。助かりました。
    •  
    • 16:08  RT @gnsi_ismr: 共通する問題意識だろうか。 http://ow.ly/2Y9ka RT @naohitookude: そのときに、個を確立してレトリックを構成する方法のほかに、成果を表現する方法はないだろうか?(略)
    •  
    • 16:08  RT @gnsi_ismr: 機能を個々の参加者に帰属せず、全体としてその機能が実現されればよい、という観点でのインタラクションの分析枠組み。この場合、各々の機能は「環境としての個人」から影響を受けながらも、「帰属先としての個人」からは自由に発生し、機能し、消滅していく、 ...
    •  
    • 16:10  @gnsi_ismr さんのTweetsをRTしました。そのとおりですね。インタラクションデザインがコラボレーションと個人の評価の問題に活用できるなと思います。おもしろいですね。
    •  
    • 16:33  @asada0 @gnsi_ismr @naohitookude あれ?この二人もお知り合い?>>えっ、浅田さんのお知り合いですか?  [in reply to asada0]
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    2010年10月22日金曜日

    KMD博士論文プロポーザルの書き方指南

    • Thu, Oct 21

    • 15:30  Janの博士論文指導終了。プロポーザルを書く。コンピュータを扱っているのだが、論文は人文系で通用するスタイルで書いてほしい。お手本はDigital Groundなどを書いているMalcolm McCulloughだ。Janはプロポーザル指導二人目。まず大切なことは論文スタイル。
    •  
    • 15:51  エンジニアや社会科学者などはAPAとかMLAというスタイルを使う。現実に投稿する雑誌の要求するスタイルとは別に、博士論文ではThe Chicago Manual of Styleを使いこなして書くべきである。ハーバード大学の説明は下記。 http://bit.ly/doP6dg
    •  
    • 15:53  学問は様々な人々の知識の引用の連鎖の中で時間をかけて自分のオリジナリティを出す。その連鎖のなかから知性が醸し出されるような引用をするためには、いまのところシカゴスタイルがベストだ。ハーバード大学のサイトからは手引きをPDFでダウンロードできる。「形式」に圧倒されるだろう。
    •  
    • 15:55  だが、この形式があるからこそ様々な研究や事例や思想を参考にしながら自分の考えを展開できる。引用の連鎖こそが知性の構造なのだ。意外な知識と知識がつながっていく。ここに学問の価値がある。文献検索もここが基本になる。知識の海に分け入っていく方法なのだ。
    •  
    • 15:57  プロポーザルを書くにあたり、博士論文執筆に要求される形式の中に自分の思考を埋め込む練習をする。初めて出てくる概念をどう説明するか、研究者や本や論文をどのように関連させながら自分の論理を組み立てていくか。知識の連鎖から生み出されるオリジナリティが学問の本質であるから引用が大切。
    •  
    • 15:59  きちんとした引用をすれば学問的な功績であり、引用がないと学問で一番行ってはいけない剽窃になる。自分の主張には常に参照がある。参照は先行研究の時もあれば、自分がみつけた史料のこともある。あるいは実験データだ。ここをきちんと整える練習をしていると段々と高度な知性が身についてくる。
    •  
    • 16:01  大学院教育や博士課程の意味を経済的な視点から議論する人たちがいる。就職口もないのに高度な教育をしても意味がないという主張だ。だが大学で教えるということの意味が戦後大学が増えて変わった。大量の大学教師が必要になったのだ。その教師達が何をしたか?高等教育を行っていたのだ。
    •  
    • 16:03  社会で活躍している人が大学で教えるようになると、「なぜいまの大学生はこんなに出来ないのだ」と批判する。やる気から知識から技能まで「最近の大学生はだめだ」と言う。多分自分の大学時代を振り返っているのだろう。だが大学の教師を長年やっていると、大学生が出来なくても驚かない
    •  
    • 16:06  字が読めなくったって割り算ができなくったって驚かない。こちらが教えれば済むことだ。そして、不思議なことに大学教育のなかで、学生はそれなりになる。かつては5%が大学進学し、いまは50%が大学になるようになるといわれて、大学生も大衆化したといわれるが、そんなことはない。
    •  
    • 16:07  戦後の大学教育はまちがいなく日本人の知性の底上げを行ってきた。いま世界中で高等教育の再編が言われているが、それは逆に今まで果たしてきたような役割をこれからも果たしていくためには今のままでは駄目だ、ということになる。それは確かにそうだと思う。で話はその上の教育。
    •  
    • 16:10  大学に就職の口がなくったって博士号をとることに意味がある。理科系はともかく人文系はそもそも就職は普通にはなかった。だが、あるレベル以上の知性を身に付けるとまったく人生の意味が変わる。なんというか自由になるのだ。学問は人間を自由にする。この解放の瞬間がPhD論文が書けたときだ。
    •  
    • 16:11  まあいろんな方法で知識を獲得して自由になることが出来る。だがPh.Dのメカニズムはそれをより効率化というか明文化している。この瞬間を体験出来るようなPhD論文執筆のプログラムを作りたいとずっと思ってきた。KMDではその仕組みがある。そしてその第1関門がプロポーザルの執筆である。
    •  
    • 16:13  こまかなスタイルや引用の方法、名前や書名の提示の仕方といった細部に実は知性が宿っている。そのあたりは書いても書ききれない暗黙知なのだが、そこに到達していない文章をみると直ぐ分かる。添削を通してしか伝えられない所でもあるのだ。文章が論理的に進み、過不足なく概念が説明される感じだ。
    •  
    • 16:15  というわけで、細部に赤ペンをいれて戻した。そして最後に結論がないけど、と質問。Janはプロポーザルで結論がいるのですか、と聞く。そうここがポイントなのだ。調査や実験をして書くのが博士論文で、まだそれが済んでいないので書くことが出来ない、と普通は思う。だが学問はそうではない。
    •  
    • 16:16  知識と知識が連鎖する。調査をして多くの知識が蓄積される。それを整理しなくてはいけない。静的な整理ではなく、結論に向かっていくようなダイナミックな整理が必要だ。そのためには力強くて明晰な論理枠を構築する必要がある。僕はここを構成力と呼んでいる。プロポーザルでそれを示す。
    •  
    •  Thu, Oct 23
    •  
    • 09:30  博 士論文プロポーザルの話の続き。博士論文プロポーザルは二つの視点から構成を考えなくてはいけない。ここが難しい。一つはプロポーザルが果たす機能の視点 である。次の9つの機能が必要だと言われている。以下Proposals that work(Sage)を参考にしている。
    •  
    • 09:33  機 能1:研究が分かりやすく紹介されているか。研究のテーマについて常識的に「いつ」「何処で」「何を」「誰が」「どうして」「どうなった」、という記述が 必要である。これは意外と難しい。一方ここを自分で決めて良い、というのが学問の自由である。ここができないと規制の枠から自由になれない。
    •  
    • 09:34  機 能2:研究の目的を明確にする。自分は何故この研究をする必要があるのか。これは論文の読み手へのメッセージとなる。ここは非常に難しい。学術論文は主観 的な気持ちを込めてはいけないと思っているとかけない。ここは主観的な部分である。研究に対する自分のパッションを示すところ。ここを固める。
    •  
    • 09:37  機 能3a rationaleを明確にする。いろいろなところで書いていることだが、日本の中で育ち、閉ざされた環境で学問をしていると、 a rationaleが分からなくなる。これは概念枠組み、つまり問題にどのような方法で取り組むかを宣言することである。これも自分で決めて良い
    •  
    • 09:44  機 能3(続き)自分で決めて良いが21世紀の学問をするときには関数概念枠組みでないとちょっと素朴すぎてかっこわるいというか役に立たない。たとえば直感 的に理解することが総合的であり、具体的に理解することが分析的だという議論だと、物事を構成する機能を説明できない。
    •  
    • 09:49  機 能3:難しく言うと関係と存在の認識論的関係がrationaleであり、やさしく言うと経験や観察したことの多様さから何らかの結論を生成する仕組みを 概念枠組みとして想定する、ということである。(あんまりやさしくないか)。概念枠組みすなわちrationaleを明示することが大切。
    •  
    • 09:50  機能3:これはKMDの多くの学生にとっては難しくない。人間が使う何らかのモノやサービスを作っているわけであり、そのコンセプトこそが概念枠組み(conceptual framework)なのだ。何をつくるか、それは何かを示すことが出来れば良いのである。
    •  
    • 10:02  機 能4:質問か仮説を示す。論文を書こうとすると、いきなり調査用質問や仮説を示すプロポーザルや発表が多い。何に対する質問であり仮説であるのかが非常に 大切だ。当然自分がしめした概念枠組みに対しての質問であり仮説だ。仮説の方が「論文」らしくおもえるのか、むちゃくちゃな仮説を作る。
    •  
    • 10:04  機能4:実際はどちらでも言い。これからまだ調査が必要であれば説くべき質問が列挙されていればいいし、基礎的な調査が済んでいてある程度のデータがあればその真偽を検討する仮説を提示する。仮説だけが独立して存在してそれをむりくり照明するような形になってはいけない。
    •  
    • 10:06  機能5論文の守備範囲を明確にする。認知の構造を議論していてマーケティングの結論になったり、アニメーションの分析をしていて脳科学の結論になったりしてはいけない。KMDのようなマルチディシプリナリーを認めている大学院ではこうした研究が非常に多い。
    •  
    • 10:09  機能5:認知の構造をマーケティングでの知見に結びつけることが悪いのではない。これは何を研究するか、その目的とはなにかという機能1と2の段階では構わない。だからマルチディシプリナリーなのだ。
    •  
    • 10:10  機能5:だがそれをどのように結びつけるかを明確にしなくてはならない。これが機能3だ。そして提示した概念枠組みを使って「認知の構造」が「脳科学の知 見」を生成することができるかを検討しなくてはならない。そのための質問あるいは仮説の提示が機能4である。機能4を証明する領域が機能5だ。
    •  
    • 10:13  機 能5:質問をおこなったり仮説を証明するのはどの領域で行うのか。適切な範囲を提示する。人間の存在の文化的意味を探っているのか、広告効果が消費行動に 結びついている測定を行っているのか、脳の物理的反応を研究しているのかを示す必要がある。ここを明確にすることは学問の誠実さにもつながる。
    •  
    • 10:15  機 能6言葉の定義を提供する。定義という言葉は日本語では非常に厳密なことを意味している。数学の定義のような感じだ。だがdefinitionとはそれ ほど厳密なことではなくて、議論を進める言葉が最初に出てきたときに、議論を進めるために必要な最小限の説明を適宜加えていく。そんな感じだ。
    •  
    • 10:17  機 能6:これが意外にできない。とつぜん新しい言葉をつかって説明を始めて、その言葉を3回か4回つかって議論を展開してしまう。だがこれは普通のことだ。 思索をしていて、どの概念が上手く展開するかはやってみないと分からない。なので、議論が十分展開したなと思ったら、文章をさかのぼる。
    •  
    • 10:18  機能6:そして、その言葉が初出した場所をみつけて、あらためてその言葉に必要最小限の説明文章を提供する。これが定義だ。博士論文で議論を展開するために必要な概念とそれを示す言葉にはすべて明確な定義を与える。プロポーザルの大切な機能である。
    •  
    • 10:22  機 能7:自分で研究テーマを選び、その研究を行う理由を説明し、研究の背後にある概念枠組みを明示する。ここまでは自分で自由に行う。その枠組みが正しいか どうかを証明する質問なり仮説を提示して、それを構成する言葉(概念)の定義を適切に行う。ここまでも自由に行っていいが、ここから先は違う。
    •  
    • 10:27  機 能7:自分の研究、概念枠組み、質問、仮説などを議論するに至った背景を説明する。いわゆる先行研究紹介である。機能1,2,3,4、場合によっては5の 先行事例を紹介する。理論も概念も事例もすべてである。ここをしっかりと行うことがアカデミズム、つまり先行する知識や理論を整理する。
    •  
    • 10:42  機 能7:論理的に分類されていることと、分類枠をこえる博学であることが共存するようなダイナミズムがあることが大切である。百科辞典を始めて作ったフラン スのディドロダランベールの役割を考えると分かりやすい。博学なディドロと几帳面な科学者ダランベール、この2つの役割が必要。
    •  
    • 10:44  機 能7:博士課程の学生はここを丁寧に書く。想像力の欠如している若手の学者はオリジナリティについて意地悪な質問をする。ちょっと長く研究していれば知識 は豊富だ。なので無防備で主題を提示しては駄目だ。自分が選んだ主題のコンテキストまで提示する。また主題を選んだパッションを示す。
    •  
    • 10:53  機 能7:このとき自分のパッションを絶叫しても駄目だ。同じパッションを持っている先行研究を探す。結構見つかる。次に概念枠組みだ。自分が利用しようとし ている概念枠組みの由来と先行研究をしっかりと提示する。ここは楽しいところだし、ここがないと知性の光る論文にならない。
    •  
    • 10:54  機能7概念枠組みの先行研究は非常に大事だ。いま査読論文システムも崩壊がいろんな所で議論されているが、新しい概念枠組みを提案することの価値が理解できていない。論理的にきちんと概念枠組みを提案してあるのにそれを批判するような学会や大学に論文を出す必要はない。
    •  
    • 10:56  機 能7:だが普通にアカデミックのトレーニングをうけてPh.Dを取得した研究者が論理的な概念枠組みを否定することはない。決定論的な枠組みしか理解でき なくて確率過程的な枠組みを理解できない、ということはある。パラダイム的な問題だ。まあそのときは大学なり学会をかえるんだね。
    •  
    • 10:58  機 能7:だがまあ普通はそんなことはない。なので、概念枠組みを明確にする。ちなみに漫才の爆笑問題はここを無視して自分の枠組みで突っ込んでくる。それに 対して枠組みで答えられないと、学者の方が「馬鹿」にみえて沈没する。だが枠組みで返すと黙る。稲見さんの回はなので、稲見さんの勝ち。
    •  
    • 11:00  機能7:自分の枠組みで突っ込んでくるのは爆笑問題だけではなくて、異分野の研究者もそうだ。そんなときに概念枠組みを明らかにするだけではなく、その歴史的背景や概念枠組みの適応の方法なども先行研究を参照にまとめておく。
    •  
    • 11:03  機 能7:仮説と質問の先行研究をまとめるためには、同じ枠組みをつかってどのような仮説が出ているか、どのような質問があるかを探す。例えば、ベイズ的確率 過程の枠組みでロボット制御からイメージ分析から、主観的判断による病気診断までいろいろな仮説や質問がある。この広がりを理解する。
    •  
    • 11:08  機 能8研究を進めて結論にいたるまでのプロセスを明確に手続き的に記述する。ここは多くの学生が勘違いをしている。プロポーザルなので結論は必要ないと 思っているのだ。だが結論に至る道筋をしっかりと考える。ここで自分の持っている構想力を証明しなくてはいけない。やりかたはいろいろだ。
    •  
    • 11:11  機能8:常識的な流れは、1)研究するために必要なデータの説明。2)データを収集する方法の説明。3)あつめたデータの利用の方法の説明。4)実際にデータを収集する計画の提示。5)データを分析するツールの説明。6)データが集まらない場合の代替案。
    •  
    • 11:12  機能8:ここまでを説明すればどのような結論になっていくかの方向性はみえるし、予備調査を行っている場合がほとんどだから結論のようなものも見えてくる。以上がプロポーザルが博士論文の契約書となるために欠かせない8つの機能である。
    •  
    • 11:19  中 身その1:さてここまでは機能の話である。次はプロポーザルの中身についてだ。プロポーサルでは何を研究したいかどう研究するかを先行研究をレビューする ことで、つまり引用の連鎖を生み出すことで行う。ここが中身1の胆だ。作業は二つ。文献を探してレビューする。探す方法が大事。
    •  
    • 11:21  僕 がPh.D論文を書いた25年ほどまえは丁度文献探索のコンピュータオンライン化が始まった頃だ。そのまえはメインフレームで整理をしてマイクロフィルム でアウトプットをつくり、それを拡大鏡で調べた。またお金を払ってロッキードなどが提供していた文献検索サービスを受けた。
    •  
    • 11:28  ステップ1:僕はアメリカの国会図書館で文献検索を図書館に直接出向いて端末の前に座って行った。結果をサーモプリンターに打ち出した。このあたりは拙著『物書きがコンピュータに出会うとき』に詳しい。しかし本当に大切なのは直接の検索ではない。相互引用だ。
    •  
    • 11:30  ステップ1:相互引用とは論文が先行研究を引用するという性質を持つことを利用して、引用された論文から相互関係をみる。つまり一つの論文がどのような分野や研究に引用されているかを確認するのだ。
    •  
    • 11:32  ス テップ1:この相互引用頻度が論文の価値になるという軽率な判断で引用数を論文の評価とするという下品な慣行(交換した名刺の数と同じだから)が科学技術 アカデミズムでは一般的なようだが、ポイントはそこではない。研究の広がりというか相互引用の先にある新しい知的フロンティアが大切なのだ。
    •  
    • 11:35  ス テップ1:従って文献探索は相互引用の連鎖の中まで踏み込まなくてはいけない。僕の頃にはCitation Indexというレファレンスの本があり、それを使って大切に思える論文を引用している他の論文を探していった。いまは文献探索のサービスはインター ネットで公開されている。
    •  
    • 11:36  ステップ1: 大学の図書館は情報提供の会社と契約をしているので、自宅からアクセスをして徹底的な調査が出来る。むかしなら調査のために半年や1年留学をしなくてはい けない作業が自宅でできるのである。博士論文の意味とか、博士号を獲得する価値とかの議論が声高に行われているが、これはすごいよ。
    •  
    • 11:38  ステップ1:なにがすごいって、大学の学生になればこの知識ベースにアクセス出来るところが凄い。自腹だとどのくらいの費用になるのだろうか。ここを活用して充実した先行研究調査を行うことが出来る。プロポーザルではその片鱗を見せればいい。これが文献探索だ。
    •  
    • 11:40  ステップ1: 次は探した文献のレビュー。だがそのまえに文献探索の結果は研究仲間と共有する。つまり仲間が研究発表をしたときに、自分の調べた文献が使えそうならその 場で教える。お互いにそれをおこなうことで研究の精度は飛躍的にたかまる。博士研究勉強会を定期的に行うことが何よりも大切。
    •  
    • 11:43  ステップ1: 文献のレビューは難しい。文献リストの中から何を読めばいいのかを取捨選択する。これを予備的読書 preliminary readingという。論文にはアブストラクトがついている。これを活用する。まあこれは出来るだろう。次に読むべき論文を読む。ここで二つ難しいことが ある。
    •  
    • 11:52  ステップ 1: 機能7で要求されている情報を読み取る。ポイントは1)プロポーザルで提示した質問や仮説が妥当だ2)プロポーザルで示した調査方法つまり結論に至る道が妥当だとする2つの議論を成立させるための先行研究をまとめることにある。
    •  
    • 11:54  ステップ 1: 必要な情報は論文の著者が1)何を知りたいのか2)なぜこの概念枠組みが結論をあたえてくれるとおもったのか3)どのようにその結論に至ったのかである。論文を読み、1)2)3)の情報が過不足提供されている形で論文を書き直す。これをパラフレーズという。
    •  
    • 11:57  ステップ1: 論文を探してレビューする。この作業は単に知識を集めるのではなく、研究に必要な知的な態度を表明することでもある。丹念に文献紹介をするとは知識の連鎖の中で自分のオリジナリティを形成していくことなのだ。
    •  
    • 11:59  ステップ2: パイロット研究の紹介。プロポーザルを書く前にある程度のパイロット研究が行われていなくてはならない。それをrationaleにあわせて簡潔に紹介し ながら博士研究で実際の行おうと計画している作業についても説明する。そして実際に仮説に即して分析を少し行う。ここが大切。
    •  
    • 12:02  ステップ2:プロポーザルの段階で現状の分析を提示しないことがある。そうすると研究が凄く遅れる。ある程度納得がいかなくても不十分でも提示する。パイロット調査と分析、あるいは最初のプロトタイプはプロポーザルの中で記述する。Do it now!というわけだ。
    •  
    • 12:06  ステップ3: ここは自分の論文はどのようなものであるのかを宣言する。論文は科学者だけのものではない。社会科学人文科学においても書く。だが科学主義というか実証 主義が幅を利かしているので、やっかいだ。そこで登場するのが科学哲学の知識だ。まず科学的なるものを明確にする。
    •  
    • 12:09  ステップ3: 基本は推論の種類だ。演繹帰納、そして帰納法の一部のアブダクション。この3つをよく理解する。マルチディシプリナリーの場合はほとんどアブダクション だという話もある。自分の研究の立ち位置を自分で自覚する。ここを明示的に示すことでプロポーザルの中身がそろうのだ。
    •  
    • 12:12  ステップ3:ここに関してはさすがにTweetsするには複雑なので本を紹介する。戸田山和久『科学哲学の冒険』盛山和夫『社会調査法入門』米盛裕二『アブダクション:仮説と発見の論理』。だがこれはサイエンスの方法だ。
    •  
    • 12:16  Step3: 人文科学には別の基準が必要である。僕はHarvard Guide to American History 1974 の1: Research, Writing, and Publicationに多大な影響を受けているが、さすがにこれは古いな。今読んでも面白いけど。
    •  
    • 12:18  ステップ3: 現在指導でつかっているのは前述の3冊を理解してもらった後、ペレルマン『説得の論理学:新しいレトリック』である。ヨーロッパで相互理解するために戦後 登場してくるいわゆるcritical writingの背後にある考え方の紹介だ。知的な推論の形がよく分かる。
    •  
    • 12:19  ステップ3:自分の作ったモノやサービス、あるいはおこなった活動も「科学的根拠」をしめさなくてもcritical writingで記述すればサイエンスではないが立派な博士論文となる。KMDでは博士論文としてそれを認めている。(完)
    •  
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    2010年10月21日木曜日

    公共圏と先端技術研究開発者

    • Wed, Oct 20 

    • 11:02  11時からある会社の研究所の人とミーティング。4〜5年仕事の付き合いがあるのでだが、来年度から全社的にイノベーションの取り組みが出来るかの相談。ユーザーの隠れているニーズを探し出す作業を研究所や高度なエンジニアリングに従事している人間ができるかどうか?つまり心が開くかだ。
    •  
    • 11:04  15年ほど前だったか、NTTの中央研究所のリサーチプロフェッサーだったことがある。NTTの研究所は外部の人間を中間に迎えることはなく、当時としては画期的な試みだった。3年の契約だったが半年でNTTは解体となり、メンバーはNTTDataやNTTDocomoに散った。
    •  
    • 11:07  残りの2年半は特定のテーマを選んで研究開発をしたのだが、当初のもくろみはNTT研究所の活動をどのように社会に展開するかであった。NTTは大きな組織なので、営業の猛者みたいな技術を熟知した人がいる。そうした人が部門の長になって一流の研究者に「研究を営業してこい」と命令する。
    •  
    • 17:20  研究者は知性・教養も品性も技術力も、数学や物理の知識もある人たちだ。NTTの研究所はそんなところだった。その人達が商売の前線に出る。納得できない決定だった。だが、その一方で、市場価値3000円くらいのソフトを30万円で売るという値付けも奇妙だった。まあ今思えば愛嬌だが。
    •  
    • 17:21  そんな怒濤の中で中央研究所がなくなっていった。そのとき感じたのがNTTの研究所の研究者は別にビジネスをしなくてもよい。ただ社会に開いた心性をもって開発すればいいということだった。だが世界は研究所の中だけにあり、世の中に自分の研究を開いていない。ここが問題だ。
    •  
    • 17:24  超一流の研究者に社会性を持たせる。公共の場所で自分に相応しい振る舞いを演じることを覚えてもらう。これは営業が上手いとか、スピーチで笑いを取ることが上手いとか、そんなことではない。社会の中で暮らしている自分を持っていればいい。いろいろな人に触れる。それだけが必要だと思う。
    •  
    • 17:27  公共性を持っている人間が考える世界最高峰の技術やサービス。素晴らしいではないか。アメリカのヴェンチャーキャピタリストの講演を聴いていると、彼らのもっている公共性の高さ、つまりは公共圏で活動するときに振る舞いに感心する。投資の判断もそこにあるだろう。
    •  
    • 17:29  科学者が奇妙な行動をすることを許す風潮がある。極端な思想を認めるところもある。だが公共性を持たない科学や技術は凶器である。研究者の内面の倫理にそれを求めるのはむりだ。公共の場にでる。それだけでいい。そのなかでたたずまいが決まってくる。
    •  
    • 17:30  これは大衆に科学を分かりやすく説明する、ということではない。これは啓蒙のベクトルが入っている。人々を教え諭して引き上げる。そうではなくて、科学者として技術者として他の世界に生きる人と友達になり、遊ぶ。それだけでいい。閉塞した専門空間から飛び出して談笑すればいいのだ。
    •  
    • 17:33  研究者達が多様な人たちとさまざまな時間を公共空間で過ごす。このことを実行できていればNTT研究所のオープン化はうまくいっただろうな。研究所のオープンハウスともちがう。異質な存在である僕がリサーチプロフェッサーになったときのような役割がもっと制度化されていたら面白かった。昔の話だ。
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    2010年10月19日火曜日

    創造的オフィス設計メモ


    • 13:42  午前中はK建設と打ち合わせ。設計と設備の若手が二人ずつ。創造的でワクワクする場所をつくり、そこを仕事場にする。難しいことではないでしょう、と説明。笑顔が出る。非人間的なオフィスでつらいのは働いている人だけではなくて、それをつくっている側も同じなのだ。
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    • 13:44  お 喋りをしてコーヒーを飲んで落書きをする。工作をしてブレストをして、ビデオを編集してポスターを作る。必要な本を収納するしっかりとした書棚があり、照 明が人に優しい。机はぐらぐらしなくていつまでも座っていることが出来る椅子がある。これが創造オフィス。このくらい従業員に与えないと。

    書評『ヘコむな、この10年が面白い!』

    • 2週間ほどかけて一冊の本を書評しました。内容は結構難しくなっていますが、新しい戦略立案に役に立つ現場からの貴重な発言です。長いですがよろしく。

    • 2010 Oct 6 
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    • 19:03  田 中宇氏の国際情勢分析 http://tanakanews.com/ が好きでよく読むのだが、彼のサイトで、書籍の広告があり、面白いので購入した。 『ヘコむな、この10年が面白い!』著者は小寺圭氏。もとソニー・チャイナの会長である。垂直統合から水平分業モデルへの説明から始まる。
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    • 19:06  自社で部品をつくると品質が高くて他から調達すると低い、というのは根拠のない話であり、大量生産された部品のほうが品質が良く価格がこなれている。中国で作られる部品は低価格の安物ではない。水平分業モデルはここから出発するべきだと彼は述べる。
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    • 19:08  iPod もiPhoneもコンセプトをアップルが作ったが、生産は中国にある台湾企業が行っている。どの企業が作ってもパソコンは同じ性能になるコモディティ化商 品だという。MP3プレイヤーも同じであった。だがiPodは違っていた。それはアイデアとマーケティングがしっかりしていたからだ。
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    • 19:10  製 造を他社に任せるには品質の保証と必要な個数をそろえるサプライチェーンの管理である。そのためには注意して工場を見て、また人を教育することだという。 ここで中国の工場で働く人と日本人はしっかりとしたコミュニケーションを行わなくてはいけない。そこが不足しているという。
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    • 19:12  さて、水平分業で利益が出るとはどのようなメカニズムなのか。設計を内部で行い製造をOEMに委託するというのがアップル社の方法であるが、ほかに相手先設計・製造というODMという方法もあるという。
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    • 19:13  川崎和男さんがデザインしたメガネを「自社のブランドで売らせてくれ」といわれて驚いたと最近Tweetしていたが、ソニーの盛田さんもトランジスターラジオを売り込みに行ったときに「うちのブランドで売らせてくれ」と言われて、憮然として断ったという。
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    • 19:15  な んだか安っぽい方法だが、実は高級オーディオでしられるデンマークのB&O社はODMの会社として知られている。設計も製造も、なんとデ ザインまで外部委託だという。それでいて高い価格で売って高い利益率を誇っている。音響機器という高度で参入障壁のない製品だから出来る話である。
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    • 19:16  製品のデザインにはコアとモジュールの区別が必要だ。(これは小寺さんの本からではなく、藤本氏の分析から)コアがある任天堂とかインテルはコア技術をブラックボックスにしてODMをする必要はない。だが、マーケティングとブランディングに自信があればODMで良いのだ。
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    • 19:18  し かしOEMにしてもODMにしても製品発注先にしっかりと製品を作ってもらわなくてはいけない。「つくらせる」能力がいるのだ。日本の企業は典型的な内弁 慶で他社とコミュニケーションしてきちんと作らせることが下手だ小寺氏は言う。相手に自分の考えを理解させるには論理的に説明する必要がある。
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    • 20:02  モ ノつくりの国からモノを作らせる国へ。これは金子哲男『「激安」のからくり』に21世紀資本主義の可能性を見る  http://okude.blogspot.com/2010/08/21.html で説明したが、アパレルや雑貨の世界ではわりとうまくいってい る。電気メーカーが対応が問題。
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    • 20:03  さ てモノを作らせる能力をまず身に付ける。次に大切になるのがマーケティングブランディングであるという。小寺氏の定義は明確だ。マーケティングとは商品 の持つ魅力を顧客に伝えその商品価値を極大化することだという。良い定義だ。感心。マーケットリサーチとかの言葉がないのがすがすがしいね。
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    • 20:07  ブ ランディングとは顧客にその企業の商品を保有することに対する安心感を与えることだという。所有することでライフスタイルが向上するような気持ちがすると いうことだという。「フェラーリとイノベーション」 http://bit.ly/clqnz9 で説明したことだ。この二つを組み合わせる。
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    • 20:09  小 寺氏は日本の将来は超絶的な技術や斬新なビジネスモデルを開発するか、「モノつくらせ」をおこなって、コストが下がってういた資本でマーケティング投資を おこなうかの二つを行うべきだという。この視点から見るとソニーのウォークマンは素晴らしい製品だった。アイデアの極致だからだ。
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    • 20:11  ア イデアが優れていて、既存の技術をつかって新しいモノを作る場合は中国の企業を活用して水平分業の利点を生かす。製品の設計などコモディティ化するのだか ら日本のエンジニアを使わなくても良い。彼らの力はもっと創造的な所に使う。台湾や中国の企業との付き合い方の方向性も示している。
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    • 20:12  こ のあたりは今回は書かないが近いうちに「資本主義の直球」としてまとめたいところだ。工場で働いて賃金を得て生活を豊かにして楽しい人生を送る、これが直 球だ。中国で生産性の悪い農業地域から希望をもって工場にくる若者を大事にする必要があるのだ。小寺氏はこのあたりも分かっている。凄い。
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    • 20:15  も のづくり大国がひっくり返ったのはIT革命と金融革命の二つを80年代以降アメリカが先導して実行したからである。70年代の日本の産業のパワーは製造設 備のコンピュータ化にあった。そこに注目して、そこをソフトウェアとハードウェアに切り分けた。ソフトウェアの知財化である。
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    • 20:17  そ の結果、ハードウェア部分は台湾と中国に持って行かれ、ソフトウェア部分はインド、中国、ロシア、イスラエルが持っていった。これがIT革命である。次に 金融革命が起きる。これは21世紀の錬金術だ。今40歳代半ばで東大法学部をでて外資系の銀行や投資銀行に就職して世界的に活躍した人がいる。
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    • 20:19  彼 らと直接話してみると、その「聡明さ」にびっくりする。あらゆるものを証券化して金融商品として市場に売り出す。頭の回転の速さとそのロジックの洗練、こ れはマジックだ。政府の規制の外で金融ビジネスを引っ張る秀才達。彼らの生んだ蜃気楼は2007年サブプライム、2008年リーマンで消失。
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    • 20:21  だ が、考えてみればIT革命と金融革命が終わった現在でも我々はまだ生きている。ここを生かして次の時代を考えない手はない。小寺氏は楽観主義なのである。 素晴らしい。そして、彼は地球を救えとかビッグイシューを議論しろなんてエリートぼけした無責任なことは言わない。彼は違う世界に注目する。
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    • 20:24  @okadahironori 設計もデザインも、ですか!?ではブランディングとマーケティングだけですか??>>しばし結論までまて。良い質問だよ。ちょっと先生ぽい発言だけど(まあ僕は先生だけど)  [in reply to okadahironori]
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    • 20:26  さ て、小寺氏はここで視点をかえてトレーディングに注目する。いまから35年以上まえだがアメリカに留学してニューヨークでいわゆる家電専門店のようなとこ ろを初めて見た。家電やカメラというのは独特な商品なのだ。ここを小寺氏は感じ取る。トレーディングとは商品を右から左へ動かすことだ。
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    • 20:28  家 電製品は必需品と嗜好品の間の商品であり、物理的な大きさに比べて商品単価が高い。したがって世界的な需要に合わせて右から左に商品を移動させて利益を上 げることが出来る。これがトレーディングだ。それを支援するつまり中継貿易をする国がある。貿易は合法的な時もあれば非合法なときもある。
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    • 20:31  香 港、シンガポール、ドバイ、パナマといった都市がそうだという。こうした分野で家電のトレーディングを行っている商人は華僑印僑、そしてユダヤ商人だと いう。華僑も客家、印僑はシンディ、あとユダヤ人商人は故郷を失った人たちである。彼らにとって魅力的な商品が世界に流通していく。
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    • 21:31  彼 らとの付き合いを通じて小寺氏はモノをどう作るかからモノをどう作らせるかに変化する必要性を主張するわけだが、そうなると作らせたモノを「どう売るか」 が大切になると言う。それを「コト興し」という言い方をしている。たとえば新幹線の最大の売りは安全かつ正確な運行だ。
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    • 21:33  そ れを可能にしているのは車両というハードではなく、優秀なシステムとオペレーションだという。日本はこうした仕組みに満ちあふれているという。たとえば水 である。水道水がおいしい、というのは技術だけではなく、オペレーションも含めた全体が上手く稼働しているからおいしいのだ。
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    • 21:36  こ うしたサービス面での優位性を事業化出来ていないのが日本の問題だという。サービスのすごさに日本人は気がついていないという。モノが壊れたときのサービ ス、顧客満足度を上げるカスタマーサービス:ショッピング、レストラン、ホテル、駅、病院、保育園、老人介護施設、結婚式場などが含まれる。
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    • 21:38  こ うしたことは日本の家電量販店を中国の企業が買収するコトなどに現れている。サービスのノウハウが欲しいのだ。あるいはウォールマートやカルフールといっ たそうそうたるスーパーマーケットがサービス競争で日本の企業、イオンやイトーヨーカ堂に敗北したことからも明らかだという。
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    • Oct14
    • 13:34  小 寺圭:「へこむな」後半部分。さて、小寺氏はものつくりからサービスへとビジネスのやり方を変えて行くにはマーケティングの方法が必要だとのべる。マーケ ティングは翻訳が難しい概念だ。営業つまりセールスマーケティングは同じではない。セールスは決められた値段で単純に売るだけのことだ。
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    • 13:36  マー ケティングとは販売ルートを考え、価格政策を作り、発注数量を決めて、販促戦略を考える。またマーケティングとマーチャンダイジングは別だという。商品の 買い付けや商品の選択に特化した部分をこのように呼ぶ。アメリカの会社はマーケティングからCEOになる割合が高い。
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    • 13:39  小 寺氏はマーケティングをモノやサービスに付加価値を与えることとしている。例として、ワインの値段が上げられている。一本1000円のものがあれば1万円 のモノがあるのは何故か。それはワインの売り方が違うからだという。モノの成分や原料コスト、製造にかかる費用からその商品価値を決める。
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    • 13:45  と ころがマーケティングの考え方ではモノに歴史やストーリー憧れなど、商品価値を高めることであればなんでものせて飾り立てる。「飾り立てること」がマーケ ティングだと小寺氏は言う。ニューヨークにいって評判のレストランに行って味がつまらなくて値段の高い料理に出会う。マーケティングの効果だ。
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    • 13:51  こうしたマーケティングを積み重ねてブランドが形成され、さらにそれが新たな伝説を生み出していく。マーケティングのこうした力で飾り立てることが出来ないのが日本の企業なのだ。だがこの方法を身に付けないと日本の企業に未来はないと小寺氏は言う。
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    • 14:00  も ちろんいいモノをつくっているのだから、それをマーケティングを通して価値を高めていくという方法が必要だ。だが、このあたりは日本企業も広告会社を通じ て行っていると言えば行っている。だが、問題はそこではない。問題はサービスだ。サービスには価値がありただで売るものではない。
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    • 14:16  日 本企業が顧客に提供できるサービスの価値はマーケティングやブランディングでいくらでも向上させることが出来る。日本のメーカーはそのことに出来るだけ早 く気がついて、モノつくりにサービスをくわえたビジネスを生み出す必要がある質の良いサービスは提供できている。そのブランドを作る。
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    • 14:18  小 寺氏の議論の優れているところはこのようにマーケティングを説明しながら、マーケティングのもう一つの側面、ニーズの掘り起こしについて触れているところ である。ここはデザイン思考が活用できる分野でもある。市場のニーズを探り出す努力をマーケティングの人間が行うべきだと述べるのだ。
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    • Oct 15

    • 13:47  小 寺氏の本の続き再開。今ある商品の付加価値を上げるだけではなく、市場から顧客のニーズを掴み出す。そのためにマーケティングを行う人間が自ら消費者の生 活圏の中にはいり彼らの生活の中身を知ることが大切だ。エンジニアや企画マンは「この商品の良さがわからない消費者はおかしい」と考えている。
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    • 13:49  こ れはエンジニア系の学生の作品を見ているとよく分かる。利用者の生活世界の理解がないのでニーズも自分で考えただけのものなのだ。小寺氏は自分の開発した 商品を説明する。欧州向けのビデオを中近東で売っていたときのことだ。中近東は国によって放送様式が違い、アメリカのNTSCもある。
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    • 13:53  パ ルセルNTSCを一台でまかなえれば売れると考え、作れるかどうか日本の開発に聞いたところ、一台あたり2万円のコスト高。そうなると売れるかどうか 自信がない。そんな時、駐在していたドバイのサービスエンジニア(修理担当)に相談する。すると簡単にパルとセカムの製品を作ってくれた。
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    • 13:54  それをもとにテヘランのエンジニアが3システムが可能なモデルを作った。海外駐在のサービス担当が本社の優秀なエンジニア集団をさしおいて商品を設計したのだ。当然開発担当の事業部は面白くない。話は進まなくなった。
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    • 13:55  ここに盛田氏が登場。「マーケットがほしがっているのならつくってあげなさい」ということで一年後には現実のモデルとして市場に投入され、いまでも売れている。ポイントはマーケティングでニーズを掴むだけではなく、ニーズを商品に具体化するまで小寺氏が行ったことだ。
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    • 13:57  つ くづく盛田氏は素晴らしいと思う。SONYだけではないが日本のメーカーで心から市場が求めていることを探し出し、それを商品にしているところはない。 ニーズを探し出して商品にする。このパイプラインが存在していない。ここを直す勇気のある経営者はいない。なのでピント外れの商品ばかりだ。
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    • 13:58  こう考えると、いま登場しているアジアの市場に対して、彼らが求めているニーズを探し出して、それを商品としてあるいはサービスとして投入することが出来れば何の問題もないのだ。そこに会社の体質を変えていく必要がある。ところがこれが何とも難しい。
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    • 14:01  小 寺氏はアップル社の事業構造を分析しながら、モノとサービスを融合した事業構造を作り、それによって中国やアジアの市場に答える必要があるという。大枠は 拙著の『デザイン思考の道具箱』と同じなのだが、これをSONYにつとめていた小寺氏が述べるところが面白い。彼はこれを「コト興し」と呼ぶ。
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    • 14:10  コ ト興しの第1の課題はモノとサービスを結びつける事業構造をつくることだ。モノつくりはファブレスオペレーションである。EMSを使う。だがこれをものつ くり能力がないと判断してはいけない。EMSメーカーに詳細に仕様を伝達するコミュニケーション能力が卓越しているのだ。
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    • 14:11  なぜ伝えることが出来るかというと、自分の力でプロトタイプを作り仕様を決定する技術力があるからである。日本の大会社のエンジニアはOEM任せで紙の仕様書は書くが、実際のものつくり能力がない人ばかりだ。つくれるエンジニアは子会社に出向させてしまう。
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    • 14:13  アッ プル社は製造設備の投資を少なくしている。もともと利益の少ないところだ。一方、製品の販売は自ら行う。ここは利益が取れるところだ。スティーブ・ジョズ ス自らマーケティングをしてブランディングを行っている。「アップルストア」も快調だ。くらべてSONYスタイルの店が暗くて低調だ。
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    • Sat, Oct 16 

    • 07:36  小 寺氏続き:アップル社の自社ストアの成功はそのまえに、量販店からアップルの扱いを拒否されていたことがある。ジョブスが復帰してから量販店での扱いは 戻ってきたが、他のWindowsマシンと同じような扱いだった。そんなときに、自社ショップを打ち出したのだ。これはなかなか衝撃的だった。
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    • 07:39  こ こから先の小寺氏の分析は駆け足なので少し僕の分析を加えておく。ハードウェアとソフトウェアとコンテンツ販売を一つのビジネスシステムとして構築する。 これがアップルがiPodに関して採用した戦略である。この3つを一つのシステムとして開発することの意味に気がついたのがSONYだろう。
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    • 07:42  CD(ハー ドウェア)にカラヤンや後のマライヤ・ケリーのスターシステムを結びつけたのが大賀氏の戦略だ。地域に密着した音楽家という職業を根絶やしにしてハード ウェアとコンテンツ販売のビジネスを成立させた。さらにウォークマンによってリビングルームから高品質音楽鑑賞の経験を外に持ちだした。
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    • 07:44  コ ンテンツ「流通」のプラットフォームであるCDを成功させたのだ。だが高音質はDATの登場で躓く。コンテンツの流通を担っている人たちがあまりの高品質 にその流通を拒否したのだ。iPodはこの膠着状態の間隙を縫って登場した。それがMP3による音源の圧縮という技術である。
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    • 07:52  音 質をぎりぎりの水準にまで劣化させてコンピュータに取り込む。高音質鑑賞というユーザー経験を好きな音楽をいつでも聴けるというユーザー経験に変える。そ してここからが素晴らしい。MP3ソフトを整理するプログラムを先に開発(厳密には買収)して、それからiPodのハードの開発に向かった。
    •  
    • 07:54  ま たそれと同時にコンテンツの流通に不可欠な著作権処理の交渉を始める。ソフトウェア主体の開発だったのだ。その意味ではi-Modeと似たビジネス展開で ある。(かなりi-Modeを勉強している?i-ModeをNTTに持ち込んだのはどこだっけな?。夏野さんじゃないよ。夏野さんはその後。)
    •  
    • 07:56  つ まりiTuneをプラットフォームとして、ハードウェアを設計し、コンテンツ流通TMSのための法的処理を行った。したがって、Morgridge氏の Designing Interaction の中でもとアップルのメンバーが答えているように、半導体の設計からビジネスの形を繁栄していた。
    •  
    • 07:58  そ のあとは、iPodの数が一定数に達すると、そこを市場とするべく、アクセサリーの接続方法を変えた。始めはRS232の端子をヘッドフォン端子から操作 できた。がこの部分をクローズにしてあたらしいインターフェイスを作り、そこにアクセサリー市場を作った。スピーカーもここにつなぐ。
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    • 08:00  つ なぐためには接続料を払う。結構な値段である。またシステムがアップデートすると古いアクセサリーは使えない。だが何千万台もiPod はある訳なので、その市場に参入したい会社は後を絶たない。コンテンツもTMSに登録すれば流通する。音質がわるいMP3のフォーマットはもう使っていな い。
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    • 08:02  こ の経営戦略実行の背景にはi-Podが提供する音楽鑑賞経験が、CDによって高品質音楽鑑賞が安価に大量に可能になったユーザーの生活シーンで、どのよう なビジネスを行えば利益が出るかを、つまり小寺氏の表現をかりると「どのビジネスに最大の付加価値が存在するか」を見極めていたからである。
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    • Mon, Oct 18 

    • 18:41  小 寺圭「へこむな」:何回かにわけて書いてきたが、このあたりで結論にする。「コト興し」つまりはモノとサービスを統合してあたらしい事業をイノベーション する方法でウォークマンはiPodにたたきのめされたのだ。SONYはDellなどのコンピュータのOEMも行っていたとも書いてあった。
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    • 18:43  さ て、あらたな産業を作る機会として小寺氏は電気自動車を上げている。電気自動車は充電システムを前提とするので、ガソリンステーションに変わるビジネスを 生み出す。電気自動車はバッテリービジネスである。このことに慶應大学SFCの電気自動車プロジェクトでも気がついていた。
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    • 18:49  エリーパワーという会社がSFCからスピンアウトしたが社長を務める吉田氏は銀行マンからSFCに参加して、電気自動車プロジェクトのなかで可能性が高いリチウム電池に注目して会社を作った。ビジネスを見る目はさすがだと思う。http://bit.ly/9JTbG8
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    • 18:54  Goodle が最近発表した"自動運転カー"はGoogleストリートビューカーが収集した膨大なデータを処理することで自動運行システムを可能にすることを目指して いるという。ここはもうGoogleが押さえている。ヨーロッパ・中国というレベルで別のスタンダードを作れば話は別だが。
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    • 18:57  と すると、電気自動車で「コト興し」をするには、バッテリーと自動運行システムでは付加価値はつかない。家はどうか?これはバッテリー問題と同じだ。家に自 家発電装置が付く。エリーパワーに住宅会社が投資している点は納得できる。すると残されているのはネットワークサービススポーツの領域だ。
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    • 19:02  ここからが面白いところだが小寺氏の本はここで終わる。だが、彼が「へこむな」で展開して見せた方法を上手に展開すると電気自動車のコト興しはかなり可能性がある。モノとしての電気自動車は世界中で多くの会社が手がけている。だが「コト興し」はない。が
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    • 19:05  コ ンテンツ販売とネットワークとハードウェアを統一してひとつのビジネスを考えることが出来れば、大きなコト興しが可能だろう。大分前にアップルが車を作る と、という記事がビジネスウィークに出た。http://bit.ly/b0YaRH ようするに「コト興し」をすればいいのだ。
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    • 19:08  コ ト興しとは藤本隆宏氏の表現をかりれば「消費空間」である。電気自動車の消費空間をデザインできたところが、次の巨大市場を手にすることが出来る。自動車 の消費空間とは大きく異なっているはずだ。いい音を聞きたい消費者が多様な音楽を聴きたいユーザーに変質していたように、消費空間は変わる。
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    • 19:10  電 気自動車の消費空間を定義し、そこを支えるソフトウェアを作り、そこで提供するコンテンツやサービスを考えてあつめて、それからハードウェアを定義して、 3つの要素をすべて満たすプロトタイプを作り、検証して、製造出来る状態まで設計して水平分業で製造して、かつ、コアを自社で握る。
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    • 19:17  さて、ここから先はいま準備しているビジネスに深く関わるので、しばらく内緒。だが、電気自動車をどのような消費空間を演出するサービスの「端末」にするかで大きく変わる。電気自動車プロジェクトはここを見誤っているものがほとんどだ。
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    • 19:21  21 世紀、郊外の戸建てに住んで親子で楽しく暮らすという消費空間が日本だけではなくアジアで、ヨーロッパで果たして存在しているのか。GMノーマン・ベ ル・ゲディーズにデザインを依頼し、フューチュラマとし1939年「ニューヨーク万国博覧会」展示した消費空間と同じではないか。
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    • 19:23  お 父さんとお母さんと子供二人。おしゃまなお姉ちゃんと腕白な弟。戸建ての家に庭。自家用車があって、お母さんはキッチンで食事を作っている。家庭団らんの 中心にテレビがある。そうそう庭のポチを忘れてはいけない。僕が『アメリカンホームの文化史』で分析して見せたアメリカ的生活だ。
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    • 19:26  石 油資源を前提として作り出された世界だ。ロックフェラーのガソリン産業の上に、GMの車が走り、テレビから広告が流れ、大量の消費財と流線型の車が走る。 このイメージを電気におきかえてもだめなのだ。21世紀の世界に希望と楽しみを与える消費空間をデザインしたところが価値だ。
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    • 19:28  Apple ストアもまだここには到達していない。SONYスタイルなのかPanasonicスタイルなのかToyotaスタイルなのか、Googleスタイル?まあ マイクロソフトスタイルにならないことは明らかだ。ホンダや日産には生活のかけらもない。まあそこに可能性はあるかもしれない。
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    • 19:29  しばらくこの世界に挑戦してみたいとおもっている。Tweetsできることがあれば書くのでお楽しみを。小寺さんの本は楽しませてもらった。(完)