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2010年6月23日水曜日

デザイン思考 Day5

  • 2010年6月22日
  • 08:00  デザイン思考 Day5: 民族誌調査の報告と分析 今日は各チームから民族誌調査の報告と分析を発表してもらう。民族誌調査をする方法はインタラクションデザインにおいて普及しているが、そのほとんどがなぜ民族誌調査をするのかの本質を見落としている。すこし原点に戻ってみよう。
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  • 08:02  デザイン思考 Day5:民族誌調査に対して現在デザイナーやエンジニアとしてある程度業績を上げている人は心のなかで「馬鹿にしている」。俺たち専門家が英知と創造性を駆使してものを作っているのに、それに普通の人のアイデアがかなうわけはないだろう、というわけだ。デザイナーやインタラクションデザイナーはきっと、「僕を誰だと思っているのだ!」と叫んでいる。
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  • 08:05  デザイン思考 Day5: 固有名詞をだすのは控えるが、そんなデザイナーやエンジニアばかりである。それにたいして、ユーザーの意見を聞き、ユーザーの為に作っています、という会社のメッセージがある。これを掲げていない会社はほとんど無いだろう。で、そのときのユーザーとは消費者なのだ。
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  • 08:07  デザイン思考 Day5: ユーザービリティスタディがそれだ。またマーケティングで顧客調査をする。質問票を使うこともあれば、フォーカスグループを使って観察することもある。こうした情報にテレビプロデューサーなどの「アイデアマン」のコンセプトを加えて商品開発をする。で、なぜ民族誌調査?
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  • 08:09  デザイン思考 Day5: 民族誌調査を行う理由はこの方法以外次世代の商品やサービスを作る方法がないからだ。20世紀生産様式において活動しているデザイナーやエンジニアも21世紀システムで活躍しようと思うならここは避けて通れない。また民族誌的手法の20世紀システム適応は意味がない。
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  • 08:11  デザイン思考 Day5:したがって、20世紀デザイナーが20世紀システムにむけて民族誌的手法で作られたデザインをみて、馬鹿にする気持ちは分かる。僕も実は同感だ。ではそもそも21世紀システムに向けてのデザインとは何か?ここを理解しないと民族誌調査は意味がない。
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  • 08:13  デザイン思考 Day5: 基本は現象学と解釈学だ。いま博士論文工房の課題論文になっているUsing Computersにおいて、コンピュータを使ったシステムをどのようにデザインするかが論じられている。そう、民族誌調査はコンピュータシステムを活用するシステムをデザインする方法なのだ。
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  • 08:15  デザイン思考 Day5: KMDの修士1年生の諸君は今回メディアデザイン基礎でほぼ全グループTinkeringを行い、インタラクションを電子回路(コンピュータ)をつかって作ってアイデアをコンピュータでスケッチした。この部分なしにはデザイン思考は意味がないのだ。胆に命じて欲しい。
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  • 08:18  デザイン思考 Day5:  センサーやライトやモーター、簡単な半導体、こんなものが「コンピュータ」なのか?と思うだろう。そうだ、それがコンピュータなのだ。コンピュータは爪切りやトンカチみたいな「道具」だ、こうウィノグラードは1986年にUsing Computersで述べた。
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  • 08:20  デザイン思考 Day5:  コンピュータを「人間」にして複雑なプロセスを人間の手を煩わせることなく処理する仕組みを作ろうと研究者がやっきになっていたときに、その方向は間違いだ、コンピュータは道具として進化するべきだと述べたのだ。そのときウィノグラードが注目したのが日常世界だ。
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  • 08:23  デザイン思考 Day5:  コンピュータが使いにくいとか、簡単に使い方を覚えたいとか、すぐに使えるようにして欲しい、といった意見をよく聞く。我々の日常世界にコンピュータが導入されたときの意見だ。20世紀エンジニアやデザイナーはこの現象を調査して分析して結論を出そうとする。
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  • 08:25  デザイン思考 Day5: だが、そんなことは無理だ、というのがウィノグラードの意見だ。いくら民族誌調査で問題点を「気付いても」問題は解けないのだ。そもそも合理的認識をこえたところに日常世界があることは、フッサールの現象学の説明をしたときに言及した。ではどうすればいいのか。
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  • 08:29  デザイン思考 Day5: 現象学が注目する大事なポイントに注目してみようというわけである。それは3つだ。まず身体の延長として意識できる存在かどうか。2番目は壊れることを想定しているかどうか、最後がちょっと難しいのだが、意識の外におけるかどうか、である。現象学的な検討は博士まで待て。
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  • 08:32  デザイン思考 Day5: この三つの注目点を意識して、日常生活を観察すると、それは一連の会話の連鎖からなっている。会話が何かを引き起こし、またどうにもならない状況、これをbreakdownという、を生み出す。ここをどうにかする道具を作ることがコンピュータシステムデザインの目的だ。
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  • 08:34  デザイン思考 Day5:新しい道具は日常生活の新しい可能性を提供するかもしれないし、新しい活動領域を生むかもしれない。だが、そうはいっても何が起こるかどうなるかは日常世界の中に新しい道具を導入してみないとわからない。予見不可能性という。なので、道具をデザインする仕組みが変わる。
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  • 08:36  デザイン思考 Day5: デザインしてみてその道具を経験して、breakdownが生じる。何度か挑戦しているうちに、何となく出来上がる。これをappropriationという。日常生活という舞台を提供するために民族誌調査を行うのだ。そしてbreakdownを記述する。
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  • 08:39  デザイン思考 Day5: breakdownの記録は主観的解釈である。この服、にあってるかなあ、という判断は、当人の主観であり、所属しているコミュニティに依存しているだろう。いろんな解釈を生み出せるような道具が大事であり、必要なのはオシャレを決めてくれるシステムではない。
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  • 08:42  デザイン思考 Day5: つまり、民族誌調査から得るべき事は、どのようなコンピュータシステムが必要とされているか、ではなくて、新しい道具が調査した日常世界に導入されるとどのように人々の経験の可能性が広がるか、なのだ。デザインするとはこの可能性を拡大することなのだ。
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  • 08:45  デザイン思考 Day5: ワードプロセッサー、表計算ソフトは人間が他者と会話する可能性を拡大した。メール、Web、と振り返ってみると、人間がコミュニケーションするメディアとしてコンピュータシステムが道具としてデザインされてきたことが分かる。25年前にウィノグラードが述べたことだ。
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  • 08:57  デザイン思考 Day5: 25年前はコンピュータ画面とマウスとキーボードの時代だ。現象学的設計論はAlan Cooperがありえないほどの低品質のMSWindowsの再設計に導入して成功し、Macは最初から積極的に導入してインターフェイスを作ってきた。その影響は多大だ。
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  • 08:59  デザイン思考 Day5:だがこの流れがもう一度変わる。センサーとアクチュエータの価格がCPUの価格と共に劇的に下がり、ユビキタスコンピューティングか可能になる。さらにパーソナルファブリケーションの登場で形を自由に作れるようになる。コンピュータの画面上に限られていた設計論の対象が変わる。
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  • 09:01  デザイン思考 Day5:インタラクションデザインの可能性が一気に広がるのだ。21世紀デザイン領域の登場と言っていい。ところが奇妙なことに、この新しい領域において、20世紀デザインの亡霊がうろつき始めている。20年以上も前にコンピュータスクリーンデザインからは消えていた亡霊だ。
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  • 09:18  デザイン思考 Day5: 稲見さんから。>第三のポイントは「身体の延長であるかのように無意識化できるか」ですよね。第一と逆に見えるので確かに博士からですかね>>そうです。ここは博士ですね。でも博士過程の学生2名、小泉君と杉浦君はこの授業取っているので、そこを目指すように。
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  • 09:20  デザイン思考 Day5: センサーとアクチュエータとネットワークが組み合わさるとデザインの領域がネットワーク上に拡大して、さらに時間軸が加わる。経験の範囲と質が一気に広がり、身体の関与のレベルも深まる。このあたりは理屈だけではなく、実際にTinkeringしたときに経験したはずだ。
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  • 09:22  デザイン思考 Day5: 交差点で待っているときに、反対側にいる人と「会話」をして、足でリズムを刻んで、交差点の模様が点灯して、そのうちにリズムが生まれる。このコミュニケーションはメッセージ交換を超えてコミットメントを引き起こす。
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  • 09:23  デザイン思考 Day5:  さらに、うまくできないというbreakdownからうまくいった経験に向かう。交差点における経験の選択肢が一気に広がるイノベーションを生み出した。メディアデザイン基礎でここまでプロトタイプ出来た君たちである。ぜひともこの先に向かおう。そのための民族誌だ。
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  • 09:25  デザイン思考 Day5: 今日発表してもらう民族誌の報告と分析はあたらしい道具をユビキタス環境と形の冒険を組み合わせて創り出すための貴重なリソースである。ここからインスピレーションを得て、日常世界を一気に楽しむ新しい道具をデザインしよう。デザインをインタラクション環境に持ち込め。
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  • 09:29  デザイン思考 Day5:現象学的設計論の基本は解釈学的民族誌によって発見した日常世界に新しい道具をもちこみ、いまある日常生活のファンタジーを引き起こすことにある。人間の存在の尊厳さを実感させるようなドキドキワクワクするエモーショナルデザインをめざせ。早朝講義終了。教室で会おう。
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  • 17:45  デザイン思考 Day5: 授業コメントから。日常生活の「濃い記述」をするときに、主観的な理解、つまりは解釈を恐れてはいけない。行動を時間軸で記述して、思ったように書く。解釈を恐れると、ありきたりのことになる。日常世界の解釈学なのだ。濃い記述がデザインのバネになる。
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  • 17:47  デザイン思考 Day5: 濃い記述と5つのモデル分析ができたら、次は記述の中に trigger と breakdown を探す。一連の動作が始まる。そこは大事だ。また動作を始めようとしてうまくいかなくなることもある。これも非常に大事だ。アクションや会話の連鎖を明確に意識する。
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  • 17:49  デザイン思考 Day5: 濃い記述と分析ができたら、最初のIdeationに入る。普通にブレストをして大きめのポストイットに100くらいアイデアを出す。それから粘土やダンボールでアイデアを作る。沢山作る。コンセプトにすることを焦らない。
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  • 17:52  デザイン思考 Day5: appropriationを発見することもある。ライブにいって演奏に感動したのに、ビデオを見直すとそうでもない。ではなぜライブで感動したのか。こうしたことが見つかるのが、Triggerやbreakdownがたっぷりと詰まった良いフィールドワークである。
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  • 17:55  デザイン思考 Day5: 民族誌調査の目的は3つ。1)自分が意識できる範囲でデザインをすると時間軸のあるインタラクションデザインは作れない。2)コンテキストから切り離せる道具でないと面白くない。4)新しいコンテキストに持っていくと楽しい道具でないと魅力がない。
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  • 18:12  デザイン思考 Day5: ラポールができたうえで、濃い記述と分析をおこない定性的判断までできたチームがある。ここまできたら、goal-directed design になる直前だ。図書館でDesigning for the Digital Ageを覗いてみよう。いろいろわかる。
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