- Sat, Jun 26
- 06:00 デザイン思考 Day7: IdeationとTinkering
- さて、今週末はいよいよTinkeringである。経験拡大をしてIdeationを行った。たっぷりファンタジアをきかせて色っぽいアイデアを集めた。ここからコンセプトを作っていく。僕のデザイン思考ではコンセプトは可触だ。
- 06:03 デザイン思考 Day7: さわることが出来るコンセプトをIDEOのデイビッド・ケリーはプロトタイプと呼び、仕様書主導の開発からプロトタイプ主導の開発へと変えない限りイノベーションは出来ないとした。プロダクトデザインにおけるラピッドプロトタイプ主義である。
- 06:05 デザイン思考 Day7: 無数のアイデアを作りだし、そのなかから可能性のありそうなものをプロトタイプにする。このプロセスがABCのテレビで紹介されたときは皆が息をのんだ。開発において製造の直前で行われるプロトタイプがカジュアルに行われていた。このビデオを始めて見たときは驚いた。
- 06:07 デザイン思考 Day7: だが、いまこのビデオを見直してみると、なぜ、簡単な素材で色々試していた活動がいきなりけっこう説得力のあるショッピングカートプロトタイプに変わったのか、不思議に思わないだろうか?僕は不思議だった。なぜIDEOはあんなに説得力のあるプロトタイプを短時間に作れるのだろうか。
- 06:12 デザイン思考 Day7:もう大分前だが、Bill Morgridge がIdeoのオフィスの裏に連れて行ってくれた。工作機械がずらっと並んでいた。またそれを操作するエンジニアも多く働いていた。製造工程にプロダクトを提供するプロトタイプをつくる機械を企画の段階で使っていたのだ。
- 06:14 デザイン思考 Day7: Billは「まあこういうわけだ」と言って「このコストが経営を圧迫しているんだよ」と笑った。工作機械は非常に高価でIdeationの時に使っていたのでは開発コストが膨大になる。なのでマーケティングをして仕様書を書いて、確実なものだけプロトタイプを作る。
- 06:17 デザイン思考 Day7: 試行錯誤の段階でプロトタイプを行う。これはIdeoのケリーが企業に営業を行うときに強く主張したことである。Winogradが編集したBringing Design to Software(1996)でケリーはデザイナーは問題解決以上の事をすると言う。
- 06:19 デザイン思考 Day7: 今問題になっていることを解決するだけではなく、それ以上の何かを生み出すのがデザイナーであり、それがIdeationの方法であり、それは裏庭にある高価な工作機械によって支えられている。この部分がなければIDEOの方法は意味がないのだ。
- 06:20 デザイン思考 Day7: 何度もプロトタイプを繰り返す。ここが秘密だ。しかし、誰もが高価な工作機械にアクセスできるわけではない。組み込み基盤に至っては手が出ない。だが、この段階での試行錯誤Tinkeringが無ければデザイン思考は自己満足的な遊びだ。ここを直視しなくてはいけない。
- 06:22 デザイン思考 Day7: 経営危機におちいりながらも高価な工作機械をつかってIdeationとプロトタイプを隣接させて強烈なプロダクトを作り続けたIdeoだが、その工作機械の部分に革命が起きた。それがMITのメディアラボでのパーソナルファブリケーション革命である。
- 06:27 デザイン思考 Day7: 3Dプリンターやレーザーカッターが工作機器の価格を徹底的に下げた。ニール・ガシェンフェルドの『ものづくり革命』(2006)に詳しいが、7〜8年前にMITのメディアラボを久し振りに訪れたときには息をのんだ。工場設備が大学の研究棟の中にある。何でも作れる。
- 06:29 デザイン思考 Day7: 6年ほどまえに稲蔭さんリーダーで始めたCrestの研究でまずおこなったことはパーソナルファブリケーション環境を研究室内に構築することだった。KMDはこの環境がほぼそろっており、「ほぼ」なんでも作れる。上流工程でプロトタイプを導入することが可能になった。
- 06:31 デザイン思考 Day7: SoundCandyとかPanaviとか名作もいくつかこの環境から生まれている。Ideoのプロダクトデザインにおける圧倒的なプレゼンスもこの革命で少し下がり、追い上げる会社も増えている。だが、もう一つ革命があった。それがフィジカルコンピューティングだ。
- 06:33 デザイン思考 Day7: これはTom IgoeのPhysical Computing(2004)に始まる。コンピュータはセンサーとアクチュエータと半導体がつながったものに過ぎないので、なんでもコンピュータになる、ということを証明した本だ。この本の衝撃は強烈であった。
- 06:36 デザイン思考 Day7: これに二つの別の動きが加わる。ひとつは制御につかう半導体がオープンソースとして提供されたのだ。Arduino(アルデゥイーノ)という。この開発者Massimo Banziの『Arduinoを始めよう』(2009)が翻訳出版されている。
- 06:38 デザイン思考 Day7: もう一つの動きはこうした半導体をプログラムする言語がやはりオープンソースとして公開された。Processingという。ジョン前田という著名なデジタルアーチストがいるが、彼がMITの教授だったときに、弟子達が開発したJavaの方言である。
- 06:41 デザイン思考 Day7: この言語はプログラミングを学ぶときに、文字のアウトプットではなく、色や形や動きを確認しながら行っていく。この感覚がみについたあとでより効率的な言語を使っていけばいい。この言語でArduinoをプログラムしてセンサーやアクチュエータを動かす。
- 06:43 デザイン思考 Day7: この環境が出てきた数年前にSketching in Hardwareという小さな会議が開かれた。招待制の会議で、世界中からこの環境で短時間にプロトタイプを作ることが出来るインタラクションデザイナーが集まり、技を競った。小林茂氏がそこにいた。
- 06:46 デザイン思考 Day7: 小林茂氏はこうした動きのなかで『+Gainer』を2007年に出版した。キーボートとモニターとマウスというデザインではないコンピュータの作り方を紹介した本だ。ここに来て、我々は20世紀産業と決別を始める。
- 06:47 デザイン思考 Day7: まず、工作機械がパーソナル化して工場設備から切り離された。形のプロトタイプのコストが下がった。次に電子回路とソフトウェアというコストも時間もかかっていた部分が「フィジカルコンピュータ」のコンセプトで解体され、オープンソースとして供給され始めた。
- 06:49 デザイン思考 Day7: そして、デザイン思考が新しい工作機械と電子回路設計環境を統合して21世紀のものつくりの方法となっていく。これが大まかな流れだ。工作をしながら何をするのかを考える、これをIdeoはbuild to thinkと呼んだが、まさにプロトタイプ主義である。
- 06:53 デザイン思考 Day7: プロトタイプ主義のなかで一番わかりにくかったインタラクションデザインの部分については最近小林茂氏が『 Prototyping Lab 』を出版して、「距離を測る」とか「動きを検出する」などの方法をレシピ(配線図+サンプルコード)としてまとめた。
- 06:54 デザイン思考 Day7: さて、ここからが今回の講義の本番なのだが、ほぼ何でも作れるようになり、このTinkering技術を身に付けてみると、プロトタイプという考え方だけでは不十分ではないかという議論が出てきた。それがスケッチングという方法への注目である。
- 07:01 デザイン思考 Day7: この考えをBill BuxtonはSketching User Experience(2007)で数年前から提唱してきた。プロトタイプはその名前の通り、タイプを決めることであり、頭の中にあるコンセプトを実際に作って可蝕にして、本当に使えるかを検討する。
- 07:03 デザイン思考 Day7: 使えるかどうか、usabilityの検証、これをコンセプトをプルーフすると言うが、を何度も行うのがプロトタイプ主義だ。勿論これを繰り返すことが魅力的なデザインを生み出す秘密だ。だがプロトタイプ環境が安価になり使い方が普及すると、もう一つ先が見える。
- 07:06 デザイン思考 Day7: それはコンセプトを作るところにも工作の思考をおうようしたらどうか?Ideationの瞬間にも工作を導入したらどうか、ということである。粘土やダンボールなどで形を探していく作業を僕は『デザイン思考の道具箱』でダーティプロトタイプと呼んでいるところだ。
- 07:07 デザイン思考 Day7: ここはBuxtonの言い方ではスケッチングだ。そしてもっと大切なことは、小林茂さんが教える電子工作の方法もプロトタイプにも使えるが、スケッチングにもっと積極的に使うべきだ。つまり、コンセプトをプルーフするためだけではなく、コンセプトを作るために使う。
- 07:10 デザイン思考 Day7: Buxtonは「スケッチはプロトタイプではない」と前掲書の139ページで宣言している。デザイン過程の上流で行われる工作はスケッチだという。まずお金をかけずに捨てても良いような工作がスケッチだ。すばやくいくつもコンセプトを工作で作ってみる。
- 07:13 デザイン思考 Day7: スケッチを何度も繰り返しながら、何を作ろうとしているのかのコンセプトを明らかにして、わかってきたらプロトタイプにしてその有効性をプルーフする。さっさと安く何度もスケッチして、プロトタイプから製品にするときのリスクも洗い出していく。つまりぼんやりと作る。
- 07:15 デザイン思考 Day7: 早い段階でコンセプトをきめてプロトタイプをするとちまちました工作になる。時間がない、予算がないという話になる。だが、なにをつくるのかを議論でもブレストでもなく、実際の工作環境であれこれ作って考える。これがハードウェア・ソフトウェアスケッチングだ。
- 07:17 デザイン思考 Day7: この考え方をみにつけないと、Tinkeringは出来ない。インタラクションデザインにおいて、アイデアをコンセプトにまとめることは出来ない。小林茂さんの卓越したスケッチング能力を理解させ、それを君たちに伝授するワークショップは何人かの学生には行っている。
- 07:18 デザイン思考 Day7: 今週末は素早くスケッチングを行う。なんどもなんどもTinkeringしてコンセプトを見つけ、固めていく。この作業をしっかりと行いながら、もう一つ大事な事がある。それがペルソナの決定だ。デザイン思考にはペルソナを決めることが不可欠である。
- 07:21 デザイン思考 Day7: ペルソナとメンタルモデル
- コンセプトとは利用者のメンタルモデルを反映したものでなくてはいけない。メンタルモデルとは提供された道具をつかって利用者が達成しようとしている目標である。メンタルモデルを表現する方法としてペルソナとシナリオ法がある。
- 07:25 デザイン思考 Day7: デザイン思考はイノベーションを実践する方法論で、初心者のうちはプロセスのステップを守ることが大切である。いつコンセプトをつくるのか、いつペルソナを作るのか、いつシナリオをつくるのか、のタイミングが大切だ。まだシナリオを作ってはいけない。
- 07:29 デザイン思考 Day7: ペルソナ法はアラン・クーパーが『 コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』(2000)で紹介して、そのあとFace, Face2, Face3の本で展開され、最近ではDesigning for the Digital Age(2009)が扱っている。
- 07:31 デザイン思考 Day7: 民族誌から分析を行い商品開発をする方法はマーケッティングと八割方共通した方法である。だが決定的に違うのは、顧客のメンタルモデルを調査から解釈して作り出す点である。デザイナーが主観的に解釈して構築するのがメンタルモデルで、顧客の行動の目的の事である。
- 07:33 デザイン思考 Day7: 現象学的設計論にしたがえば、利用者のメンタルモデルが反映した道具をデザインする。この道具の仕組みがコンセプトである。コンセプトが目的を達成する道具として使うことが出来るかは使ってみなくてはわからない。目的を考えるときに武器になるのがペルソナだ。
- 07:36 デザイン思考 Day7: ペルソナは『デザイン思考の道具箱』でも説明したが、要するに映画やテレビドラマのキャスティングと考えてもらえばいい。35歳、独身、男性、年収1500万、世田谷区経堂で一人暮らし、という記述はマーケティングの属性であり、セグメント化とターゲット化の資料だ。
- 07:37 デザイン思考 Day7: こうした記述ではなく、固有名詞をいれて、顔写真をそろえ、配役をするような記述を考える。そして、かれのメンタルモデルつまり目的を決める。そのペルソナにどのように設計した道具を持たせると彼は目的を達成できるのか。複数のペルソナを考えることも出来る。
- 07:39 デザイン思考 Day7: このときどのような道具をどのようなペルソナに提供するとメンタルモデルつまり目的が自然に達成されていくか。ここまでの検証を丁寧に行って欲しい。しっくりと来ることが非常に大切である。無理矢理物語を作ったりしないこと。あとスケッチングを繰り返すこと。
- 07:41 デザイン思考 Day7: さて、今日はたっぷりと講義をした。スケッチングもペルソナ作りも楽しい作業である。何度も何度も繰り返して、これだ!!というコンセプトとメンタルモデルとペルソナを作りだして欲しい。聞いていて楽しくリアリティを感じるようなものができれば成功である。健闘を祈る。
analysis
2010年6月27日日曜日
デザイン思考 Day7
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