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2010年7月4日日曜日

日本メーカーの蹉跌:いかにして21世紀企業となるか

     Sat, Jul 03
  • 日本メーカーの蹉跌:いかにして21世紀企業となるか
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  • パナソニックが日本人以外の新規採用を大幅に増やし国内での採用を絞り込んだ。一年ほど前にある人と話していた話がよみがえる。イノベーションへの戦略に関する話だったが、「それでは工場の必要なところに会社が動く、ということですよね、門真から飛び立つ訳だ」と驚いた。
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  • 15:51  もともと必要なところに工場をおいて生産をしてきた。日本各地に工場があった。世界で必要とされているなら、そこにいこうではいか、ということですと、その人は答えた。確かにそれも戦略だ。トヨタがアフリカ進出を躊躇しているときにパナソニックは素早く誠実に行動した。市場に答えて工場を海外に。
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  • 15:54  これは植民地型の工場移転ではない。安い労働力をもとめて、アジアに工場を造り、アメリカ市場にむけて売りまくる。これがいままでの構造だ。だが、今回のパナソニックの決断は、ある意味、松下幸之助が考えた水道哲学のグローバル実践だ。生産による貧困の克服である。水道哲学って知ってるかな?
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  • 15:56  松下幸之助は産業人の使命は貧乏の克服であるとした。たっぷりとものを製造して、そのことで人々は貧乏を克服する。ものは水道の水のように大量に廉価に供給して初めて意味がある。廉価で上質のものにあふれるユートピアを作る。これが水道哲学である。
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  • 15:59  この選択は正しいだろう。グローバル企業にたいする日本的回答だ。ソニーはどうなるのか、日立や東芝のような重電系はどうなるのか、トヨタは、日産は、ホンダは、と気になるところだ。飛び立っていく企業もあれば、飛び立てない企業も多いだろう。それは実際にどうなるかみてみないと分からない。
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  • 16:01  大量生産は貧困からの脱出である。これは強烈な哲学だが、フォードの大量生産哲学もそうであり、工場労働者が車と家を「所有できる」システムを提供して、社会主義とはことなるビジョン、資本主義、を示したのだ。20世紀はこの哲学が勝利した世紀だ。それが終わろうとしている。
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  • 16:02  もちろん、世界の工場となり、低賃金労働を提供して低価格商品を作り続けてきた中国も、労働者の賃金が上昇するにつれて民主主義への欲求が高まる。ここをどうしのいでいくかが今後注目だ。今回はこうした流れの中で、日本メーカーはどのようにイノベーションを行っていくかを考えてみたい。
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  • 16:12  なんどかTwitterに登場するO社とS社は売り上げが1000億程度。パナソニックや東芝、ソニーといった規模の会社ではない。僕はこのクラスの会社の売り上げを4倍とか10倍増やす経営戦略にこそデザイン思考が活用できると考えて、ワークショップをともなう戦略コンサルティングをしている。
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  • 16:14  パナソニッックの場合はイノベーションをしない、という戦略にでて、水道哲学をグローバル展開することにした訳だ。だが1000億規模の会社はどうすればいいのか。ひたひたとグローバル化が押し寄せている。つまり売り上げは明らかに海外でのびている。なんらかの商品を適切に投入できればいい。
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  • 16:15  彼らは普通の経営コンサルティングに状況分析を依頼している。結果はまさにグローバル市場で売り上げを上げる戦略をおこなって生き延びていく、というものだ。だが経営戦略コンサルはどのように売り上げを上げるか、については提案できない。基本的にコスト削減、人員削減が彼らの武器だ。
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  • 16:18  生き残りのための拡大案が必要なのだ。マーケティングリサーチをおこなうにもまだ存在していないマーケットだ。マーケットが見えたとしても、そこに適切な商品を投入しなくては行けない。その商品が見えても、高い品質で低価格にその商品を投入する製造設備が必要である。この3つの問題をどう解くか。
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  • 16:20  技術的な優位性、とくに日本のメーカーのもつ微細な部品を高品質で作るという特性は維持しなくては行けない。ここができるメーカーは日本以外にない。また今後もなかなか出てこないだろう。ここの手を緩めてはだめだ。あと特定のニーズにむけてシステムを作り込む開発力も優れている。ここも大切だ。
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  • 16:22  だが、なにをつくるのか、どうつくるのか(設計図をどう書くか)の部分がない。これは日本のメーカーすべてに共通する問題だ。メーカーの商品開発の現状を知っているだろうか?マーケティングリサーチと技術ロードマップで商品企画が立てられる。それが開発に回り、開発は仕様書を書く。
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  • 16:24  仕様書が協力会社に渡される。ここのやり取りで開発は消耗する。次にデザイン部門に渡される。インダストリアルデザインの部分は社内で行い、インタラクションの部分は社外に出る。このサイクルも非常に短い。この方法では何をどう作るかの検討がない。その必要がないものに関してはこれでいい。
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  • 16:26  パナソニックの例が示すように、そこを検討しないと決めればそれはそれで決断だ。だが、1000億規模だと、その決断をすると会社が成り立たなくなる。自分が活動できる範囲に市場がなくなってしまうからだ。自分が関与できる範囲で新しい商品を作らなくてはならない。それな何か?答えはない。
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  • 16:28  メーカーの企画部門こそが、この問題にチャレンジしなくては行けない。何をつくればいいのだろう、どう作ればいいのだろう、これはwicked problem である。定義もできなければ分析もできない。これを解く方法は何かをつくってみて試してみるしかない。主観的な開発手法だ。
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  • 16:32  具体的には商品開発の上流過程において主観的な商品開発を行う。アイデアを出して、コンセプトの仕様を決めて、実際につくってみて、有効そうなら、顧客に使ってもらう。これを何回も何十回も繰り返して、イノベーションを行っていく。これしかwicked problemを解決する方法はない。
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  • 16:35  過去数年にわたってデザイン思考のコンサルティグを行ってきて、得た結論がこれだ。この手法を日本のメーカーに適応した記録が『デザイン思考の道具箱』だ。だが、日本の大企業にこの手法を持ち込むことは現状ではほぼ不可能だ。この問題はあらためて論じる。国際会計標準の問題だ。しかし、社員がなんとなく全員意識できる1000億くらいの企業なら大丈夫だ。
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  • 16:37  方法はこうだ。開発とデザインとマーケティングからメンバーを抜擢する。かれらに基本的なマーケティングリサーチをやってもらう。入門レベルでいい。そのあと、民族誌調査分析とデザイン思考を行う。そのうちにこんな物作ったらいいなというコンセプトができる。ここからが大切だ。
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  • 16:39  デザイン思考で作ったコンセプトを提案したときのそのときの普通の反応はこうだ。まずビジネスモデルを聞かれる。マーケティングの専門家がたてるようなきちんとした説明が普通はできない。で評価は×。次に開発から技術の先進性を聞かれる。そのへんの技術をあつめて特急で作ったので、評価は×。
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  • 16:42  次にデザイン部署からデザインの稚拙さを指摘される。でここも×。たとえば、今回AXISに我々が作ったプロトタイプを掲載していただいたが、すごい英断だったとおもう。デザインのクオリティをとわれたらあれは苦しい。マーケットと技術とデザインが一致したコンセプトの評価がデザイン部門はできない。
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  • 16:44  そこで僕がとっている戦略は3つの部門から来た人にコラボレーションをしてもらって、全体が生まれる瞬間を経験してもらうことだ。だがさすがにネンドとボール紙のコンセプトは当事者しか感動しない。これを静的コンセプトと最近呼んでいる。これが動くようになると分かる。それが動的コンセプトである。
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  • 16:46  動的コンセプトとはTinkeringを行い、インタラクションを生み出し生活のなかで意味があることを実践的に示すことができるものだ。これが必要なことが分かってはいたのだが、コストと時間でここを作れなかった。それが過去のデザイン思考ワークショップである。だがいま可能なのだ。
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  • 16:48  先日O社のデザイン部門と開発部門で小さなワークショップの実験をした。デザイン部門はデザイン思考ワークショップ入門編のトレーニングを終えている。開発は初めてである。簡単な説明をして、準備をしてもらい、あつまった。小林茂さんに簡単な説明をしてもらって45分で動的コンセプトを作った。
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  • 16:50  そのとき、参加者の写真をとったのだが、みんな笑顔で本当に楽しそうに仕事をしている。動いたが形がきまらないときに、機械工学ができる開発の人がぱっと形にした。ソフトウェアの人がどんどんプログラムを書く。デザイナーは形を工夫したりシナリオを工夫したりする。そして、時間とコストが安い
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  • 16:52  実はここが非常に大切なのだ。短期間で低コストでどんどん動的コンセプトを作る。この繰り返しが新しい商品を生み出す。できてしまえば、それを設計して工場に渡せばいい。だが設計者が社内にいないことが多い。だが、それも訓練すればすぐだ。そのための環境が急速に充実してきた。
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  • 16:54  そして、O社やS社のワークショップを行っていて感じるのは日本の会社員の質の高さだ。上手にコラボレーションを演出すれば、あとは彼らがどんどん作業を行う。スピードもコストもかからない。ここで生まれたイノベーションを市場に投入して、だめならもう一度イノベーションを行えばいい。
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  • 16:56  上流過程でうまれるこうしたイノベーションを大切にすること、全体性を評価して、個別部門がケチをつけないこと、動的コンセプトをつくる技法を皆が共有すること、そして楽しく生き生きと試行錯誤を繰り返すこと。この文化を会社の中に生み出したところが21世紀企業となる。
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  • 17:01  松下の水道哲学は貧困からの脱出である。脱出した後、退屈な日常からの脱出、創造的な世界を提供するのが21世紀企業。インタラクションが21世紀の基幹技術となるためには、新しい道具をつくるメタデザインメタエンジニアリングをおこなう集団が経営の上流過程に必要なのである。(完)
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