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2010年8月5日木曜日

21世紀デザイン論へむけて

  • Wed, Aug 04
  • 08:56  回りくどい表現でモダニズムと精神性の話を書いているが、いわゆる通常のデザイン史における単純な伝統からモダニズムへの流れを相対化しようという試みでもある。歴史学はここ30年にわたって、単線的な世界史の議論を相対化してきた。複数の文明がそれぞれの歴史をもっている。デザインも同じだ。
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  • 08:59  複数のモダニズムがあり、複数の「デザイン史」がある。ヨーロッパモダニズム以外は「伝統」の一括りで語ってしまう粗雑な議論への異議申し立てだ。日本の一般的なデザインがジャポニズム(伝統)かミニマリズム(ヨーロッパモダニズムで解釈できる日本)に分裂してしまっている事への懐疑でもある。
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  • 09:03  こんなことどうでもいいと思うだろう。だがグローバル時代を迎え、資本主義の勃興が各地で始まり、伝統的衣服を脱ぎ捨ててファッションが始まり、伝統的生活をこえてモダンリビングが始まっている。表現としてのモダニズムの胎動があるのだ。これを「歴史の終わり」と見るべきではない。
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  • 09:17  歴史の終わりとは欧州共同体欧州連合という流れの影の立役者であるコジェーブの考えをアメリカの政治学者フクヤマが展開し、資本主義と民主主義の発達が社会主義を一掃し「歴史」は終わったとする考えだ。アメリカ帝国主義を指示する保守的な言説である。だが僕ら結構このイデオロギーに捕まっている。
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  • 09:23  民主的な社会を求める気持ちが政治的なイデオロギー闘争を無用にする。これは正しい。だが民主主義にも資本主義にもそれぞれの形がある。伝統から単一の抽象的なシステムになっていくわけではない。この議論は難しいので分かりにくいかもしれないが、複数の民主主義と複数の資本主義があるのだ。
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  • 09:26  多様なモダニズムという考えは多様な民主主義と多様な資本主義の存在から生まれてきている。人間に備わった創造的能力が、自分が置かれた民主主義と資本主義のコンテキストに合わせて、あたらしい表現を見つけ出していく。この仕組みが人間社会の中に埋め込まれている。ここに注目したい。
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  • 09:28  人間のこの能力が人間が人間として存在することを可能にする。その証がデザインだ、というのが都合のいい話だが、デザイン思考の根底にある。「歴史の終わり」の社会における業務遂行のエリートであったダニエル・ピンクやリチャード・フロリダは僕と同世代に近いが、彼らの本の前書きが面白い。
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  • 09:31  勉強をして良い成績をとって出世をしなさいという両親の期待を背負って勉強して良い大学に入り超一流のロースクールをでて、「歴史の終わり」の社会をまっしぐらに駆け抜けていたときに、自己実現できないむなしさを感じ、平等でも金銭的豊かさでもない創造的になることの価値を知る。ここがポイント。
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  • 09:34  で、話はとても難しくなるのだが、シュンペーターへ。20世紀の資本主義と民主主義と社会主義の動きは社会主義という官僚組織に飲み込まれる。官僚とはリスクをとらないそろばんをはじく会社員も含む。この流れをとめるのがイノベーションだというのがシュンペーターの予言だ。
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  • 09:41  社会主義は亡びたが、リスクを取らない組織体は残った。これを資本主義と民主主義の勝利とみるのか?リスクを取らない組織体は衰退する。外部システムとのエネルギーの交換がなければ、システムは徐々に活力を失う。どこかに活力を創造するところが必要だ。GEとP&Gという巨大官僚組織が動いた。
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  • 09:46  創造的な活動を組織内に持つ。そのことで活性化を図り組織の生き残りを可能にする。シュンペーターのイノベーションへの21世紀的回答がデザイン思考である。ゼロが一になる瞬間を組織の中に持たせるのだ。この方法は劇薬である。だがこれが株主に対してリスクを最小にしつつ利益を最大化する答えだ。
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  • 09:50  この話をすると、経済理論好きからコメントが来てしまって面倒だが、基本的にはリスクとは損をすることだけではなく利益が上がったときもリスクと呼ぶ。ようするに不確実性のことで、その反対概念は確実性だ。だが、日常世界感覚ではリスクとは損をすることだ。なのでリスクの反対は利益になる。
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  • 09:53  ポルトフォリオはこうした日常的感覚から逃れるための方法でもあり、リスクのあるものをここにいれて一元管理をする。するとアップサイドリスク(儲かる)ダウンサイドリスク(損する)が組み合わされ、結果として利益がでる可能性が高くなる。これが金融における不確実性からの脱却である。
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  • 09:55  さて、問題は核心に入ってきたが、イノベーションはポルトフォリオ管理するべきなのか?デザイン思考はポルトフォリオ管理するべきなのか?儲かるか儲からないかわからないからひとまとめにして、結果として利益を最大化しようという試みをするべきなのかどうかである。
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  • 10:02  デザイン思考はGEやP&Gではリスクをポルトフォリオ管理して会計やマネージメントを徹底すると縮小再生産する組織を活性化させる方法である。だがコンサルタントレベルだと、これ一発で会社の業績回復とか国の政策だと、イノベーションをして次のリーディング産業を育成になるとなる。あり得ない。
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  • 10:05  デザイン思考はその手法に熟練した人間が不確実性に対して実践的に挑戦する方法である。複数の活動を行い、その結果ポルトフォリオとして成果が出てくる。儲かることもリスクだからね。実践的能力を持っていることが大事。これは個人の成果主義ではない、ということにもなる。
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  • 10:08  話のリーチが大分長くなった。ちょっとまとめておこう。グローバル化は世界の均質化を生まずに、各地で資本主義と民主主義への胎動を生み出している。この動きはさまざまなモダニズムデザインを生み出していく。なぜならあれもこれも欲しいという欲望に答えるのがモダニズムデザインだからだ。
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  • 10:10  この欲望なしに民主的な社会の実現は不可能だ。身分の区別なくこれが欲しいという気持ちが貧困からの脱出を可能にする。松下幸之助の水道哲学だ。20世紀インダストリアルデザインはこのダイナミズムへの回答でもあった。だがそれは機械というシステムへの服従でもあった。社会主義を内在させていた。
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  • 10:16  だが、欲望経済は身分ではなく富の偏在を生み出す。この問題の解決が社会主義だったのが20世紀だ。一方社会主義はリスクを否定する官僚制度でもある。そして、リスクのないシステムは内部崩壊する。なので、実は社会主義は大企業の中にもある。リスクをとれない人たちが決定権を持っているからだ。
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  • 10:19  新しい表現や仕組みを作りだしていくことはリスクを拡大つまり不確実性を拡大させることである。だが、そのなかから新しいコンテキストを自ら引き寄せて、魅力的な形にあるいは仕組みに変化するものが出てくる。それは不確実性なので予言は出来ないのである。ここに挑戦するのがイノベーションだ。
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  • 10:34  イノベーションを実践する人は自分に自信があり創造性を持っていると自負しているくらいでないと使い物にならない。だがリスクを取っているので成功の保証はない。失敗のリスクを回避する方法を意識させると成功の確率も下がる。あわせて判断するポルトフォリオの世界だからだ。
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  • 10:36  さて、こうした状況の中でイノベーションで生き残っていくために組織論の視点から積極的に発言し、また影響力があるのがクリスチャンセンだ。彼の行っていることは様々な現象を見ていると正しい。イノベーション戦略としてすぐれているが、それを実践する方法はどうなのか?その解がデザイン思考だ。
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  • 10:39  それは創造性を拡大させる発想法の視点と、イノベーションを形にしていく、つまり作っては考えていく方法が組み合わさったものだ。この作業を外部世界に関わり合いながら行っていく。この手法をとることで、イノベーションリスクポルトフォリオの質が圧倒的に向上する。
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  • 10:45  以上のように書くと大げさだが、デザイン思考の授業で10をこえる最終発表を見たが、3つ以上はかなりいける。この段階で選考して第二段階に進めていく、という方法を採っていけば答えはでてくる。多様な経験を分析し、要素を抽出して、組み立て直す。このイノベーションプロセスがまずは大事だ。
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  • 10:47  このとき、確立したデザイナーは「そんなことをしても良い物は出来ない」と必ず答える。確実性を考えればそうだ。だが確実なことをしていては組織は息絶える、というのがイノベーションの出発点なので、創造性を人依存、外部依存しては駄目だ。で、話はようやくモダニズム表現に戻る。
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  • 11:02  成功するかどうかわからない不確実なイノベーション作業をなぜ好む人がいるのか。合理的なあるいは功利主義的な活動ではないにもかかわらず、人はそれを好むのは何故か。僕はそこに人間の本質的な欲求を満たす要素があるからだと考えている。イノベーションする、創造的な活動をすることは楽しい。
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  • 11:05  楽しいことをするホビースト達。無数にいたコンピュータホービーストから何名かが企業家として20世紀後半を飾った。楽しさを伝導するのがCEOの仕事だった。こんな楽しいことから生まれてきた産業だ。エネルギーがないはずはない。だが、この世界にいまはイノベーションの領域は少ない。
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  • 11:46  いま人々が夢中になっているのはMakeの世界だ。手作りの手芸から電子工作まで。数年前からこの動きがあり、とまらない。パーソナルファブリケーションとユビキタスコンピューティングという大きな技術的なブレークスルーがあった領域である。できるだけ多くの人が夢中になっている分野が大切。
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  • 12:55  Makeの作品を見ても、また手作り工作交換サイトEtsy http://www.etsy.com/ を見ても「モダニズム」とはほど遠いべたなものばかりだ。だがまずはこれで良い。自分で一生懸命作ったものが人の眼に触れ手に渡るわけだから、物とコンテキストのしがらみは切り離される。
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  • 13:26  この段階はThe curiosity shopであり、大航海時代のヴンダーカマー(驚異の館)である。コンテキストをきりはなされた物は好奇心や猟奇の対象になって集められる。こうした想像力の先にモダニズムがあるのだ。それは世紀末のラスキンやW・モリスの試みとあまり変わらない。
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  • 13:29  電子市場によって可能になったあたらしいthe curiosity shopや電子部品で可能になったウンダーカマーがある。その中で部品を組み合わせきてれつな全体を構成する作業が続く。appropriationだ。いまMakeやEtsyを見ているとこうした動きを感じる。ここが大切。
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  • 13:31  要素を統合し、ハーモニーを生みだし、出来上がったものが全体として輝く魅力をもつ。これがデザインだ。人々がappropriationを繰り返す中でいままでにない形や動きを創造する。それがデザイナーの仕事なのだ。実はデザイン思考はこの水準でのデザイナーとしての創造性を求めている。
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