メディアをデザインする:Bill Moggridge氏講演録
- 15:20 モグリッジ氏講演レポート(1)2010年3月Bill Moggridge氏はスミソニアン博物館の一つであるCooper-Hewitt, National Design Museumの所長になってIDEOを去り、ニューヨークに移った。
- 15:21 講演(2):1980年にラップトップコンピュータGRiD Computerを初めてデザインしたことで知られ、またインタラクションデザインの分野を切り開いてきたパイオニアでもある。博物館のURLは下記。 http://www.cooperhewitt.org/
- 15:22 (3)僕は彼が最初のラップトップを発表した翌年、スミソニアン博物館と連携して博士号をだすプログラムのあるジョージ・ワシントン大学に留学をしてVernacular Arcitecure の分野でニューオリンズの19世紀半ばの住宅の研究で博士号をとった。
- 15:23 (4)これはラスキンやウィリアム・モリスをご先祖とする学問分野であり、デザイン論の根源をといかけるような領域だ。同時に爆発するパーソナルコンピュータの大波をタップリと浴びた。このあたりは『アメリカンホームの文化史』と『物書きがコンピュータに出会うとき』で詳しく書いた。
- 15:24 (5)その後メディアとしてのコンピュータに夢中になって20年くらい経つ。ユビキタスコンピューティングの時代になり、機器としてのコンピューティング端末が我々の生活環境に拡大し、昔勉強していた生活空間のデザインとメディアとしてのコンピューティング環境が一つのものに融合してきた。
- 15:25 (6)モグリッジ氏に初めて会ったのは1980年代の後半だったと思う。IDEOを創設する前だった。彼が日本を訪問したときに日経新聞の記者がインフォーマルなミーティングをセットした。彼の作品の幾つかを日経新聞の雑誌「日経イメージ気象観測」で僕が紹介していたことがきっかけだ。
- 15:25 (7)その後、1990年代の始めにいまのIDEOのCEO、Tim Brownと僕とで一緒にちょっと大規模なデザインワークショップを一週間大阪でプロデュースした時以来、コミュニケーションが続いている。ワークショップの締めのシンポジウムで山中さんや深澤さんにきてもらったことも懐かしい。
- 15:28 (8)ラップトップのデザインも素晴らしいが、モグリッジ氏が切り開いたインタションデザインの分野はその後の僕の人生を大きく変えた。眼に見えない経験をデザインする。人間を観察し、手を動かして考える、つまり作るという作業を繰り返す経験が必要だということが衝撃的だった。
- 15:29 (9)インタラクションデザインはマウスの発明に始まる。Designing Interaction http://www.designinginteractions.com/ ではパイオニアのインタビューに満ちているが、そこからEngelbartのビデオが紹介された。
- 15:29 (10):次にデスクトップをつくったTim Mott。さらにインタラクション理論をまとめたWinogradと紹介された。このビデオはオンラインでも見ることができる。
- 15:31 (11)現象学をインタラクションデザインの原理に持ち込んだヴィノグラードの理論の骨格はconversation、manipulation, locomotion, の三つの概念だ。
- 15:32 (12)conversationはコンピュータと対話するということだ。これはテキストターミナルで可能になった。
- 15:32 (13)manipulationはコンピュータ上のオブジェクトをモノとして操作することができるつまりは道具としてコンピュータが設計されること。マウスとデスクトップメタファーがそれを可能にした。
- 15:33 (14)locomotionはWebでサイトを訪問している感じだ。インターネットでコンピュータ同士がつながったときに、空間を旅している感じがした。これがサイバースペースの始まりだ。
- 15:34 (15)インターネットの世界でテキストが行き交うコンソールを前にして超越論的な存在感を経験していたMITのエンジニアたちはSF作家のギブソンが『ニューロマンサー』で展開したディスコースに自己の経験を重ねた。この感覚が普通の日常生活を送る我々に提供されたのがWebの登場である。
- 15:36 (16)マウスとデスクトップメタファーをもったコンピュータがネットワークされた状態となり現在の我々のコンピュータの基本的な構造ができあがった。さて、ここまでがキーボードとデスクトップメタファーの画面とマウスが提供してきたインタラクションデザインの話だ。
- 16:22 (17)このあたりまでは僕の『思考のエンジン』に詳しく書いた話だ。ずいぶん昔のことだけど。ではこれからどうなっていくのか。最近彼が出版したDesigning Media http://www.designing-media.com/から例が紹介された。
- 16:35 (18)Facebook, YouTube, Twitterなどの新しいメディアをデザインの視点から見ると、たとえばFacebookはmanipulatonとlocomotionからなる。だが、いままでのデザインにはなかった視点がここに生まれているという。
- 16:38 (19)それはThe Creator Economyだ。Paul Saffoの命名だ。http://www.saffo.com/ 彼によると、いま起きているのは50年ぶりのメディア革命だ。テレビが登場したときにマスメディアが生まれた。
- 16:38 (20)個人はメディアからのメッセージを受動的に受け取り消費する存在になった。現在のパーソナルメディアはメッセージのやりとりがインタラクションになる。ここまではまあメディア論としてはよく言われていることが。だがこれをデザイン論として考えると、とモグリッジ氏は続ける。
- 16:41 (21)人々を観察してプロトタイプを作るというデザインプロセスに物語を語るという新しい要素が加わる。観察して考えてものを作る。このあたりはDesigning Interactionの中で詳しく説明されている。だが、メディアをデザインするにはこれでは不足だ。
- 16:44 (22)観察から何かを思いついて、それをものに展開して、更にそれが正しいかを検証する。英語で言えば、inspire, evolve, validateである。新しい手術の機器の形を手術室を観察したデザイナーが思いつき、形に展開して、現場でユーザーにその有効性を確認する。
- 16:48 (23)だがFacebookのような新しいメディアでは利用者がメッセージを発信している。この仕組みをデザインするためにはconversation、manipulation, locomotionの妥当性を同時に証明しなくてはならない。手術器具デザインの妥当性の証明とは異なる。
- 16:55 (24)新しいメディアをデザインするとなると、プロダクト、ユーザーインターフェイス、そしてユーザー経験というように異なる3つの側面を全体として確認しなくてはいけない。IDEOで言えば、IntelUMPCの一連のビデオがその例だ。http://bit.ly/eCwzbZ
- 16:58 (25)この作品を見ただけでは未来のプロダクトをビデオでつくって提示している方法と変わらない。だが、もしこれらが実際にプロトタイプとして動いていたらどうだろうか。技術的な裏付けがあってつくったプロトタイプが、利用者がメッセージを発信しているメディアであることを伝えている。
- 17:01 (26)ユーザーが新しくデザインされたメディアで経験していることが確認出来れば、プロトタイプの使い方を検証validateできたといえる。この検証を行うために必要となるのは物語を作る能力である。インタラクションから新しいメディアへとデザインの領域が進化した時に必要となる。
- 17:02 (27)それは一般に物語の法則とよばれているような規則を上手につかう方法を身につけることだ。まとめると 1) action 2)reflection3) rising action 3') coloar and suspention 4) reflectionである。
- 17:04 (28)物語を作る能力に関しては Ira Glass for This American Lifeが参考になる。GlassはNPRで番組をもっていて物語についていろいろと見識をもち、実際に様々な話を物語にしている。http://www.thisamericanlife.org/
- 17:08 (29)以上が講演のまとめだが、インターネットの普及によって、マスメディアからパーソナルな双方向メディアに変わった。デザイナーは双方向メディアをデザインしていかなくてはならない。インタラクションデザインには観察・プロトタイプという方法が必要だった。
- 17:09 (30)双方向メディアをデザインするには物語をつくりそれを提示するという役割もデザイナーには必要になるということだ。デザイン思考に物語手法を加えていくことがこれからは大切になってくるという話である。いま考えていることに大きく関わる非常に感銘を受ける発表だった。
- 17:12 (31)講演終了後、小林茂さんにモグリッジ氏を紹介した。いま彼と柏樹さんと瓜生くんと僕とで取り組んでいるメディアファニチャーを考えるときにしっかりと考える話だったし、メディアデザインという領域がデザイン思考の延長にあることもしっかりと体系化できた。(完)
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