- Sat, Dec 04
- 18:12 GSIF報告:Global Social Innovation Forumに2日間参加した。そこからすこし21世紀のアジアの社会システムのあり方を考えてみたい。このフォーラムはリー・カン・ユー直々に政府の高官に抜擢したペニー・ロー(Penny Low)氏が主催している。
- 18:18 NUSで社会学と経済学を学ぶ。その後政治の世界にでて見いだされる。彼女の基本的な考えはルソーの言う社会契約をもう一度違った形で政府と国民は結ぶべきだという。社会学とか哲学の知識があればびっくりするくらいの啓蒙主義者で民主主義者で21世紀のシンガポールを考えるときのキーパーソンだ。
- 18:21 茂木健一郎さんが日帰りで参加していたがいろんな国からスピーカーが呼ばれて話をした。もう一つの呼び物はIDEO上海の協力と慶應とNUSのCuteセンターで提供するデザイン思考を基本としたインタラクティブな議論である。長丁場でIDEO上海の代表のリチャード・キリーと稲蔭さんが担当。
- 18:23 僕は全体会の話し合いをきいたり、ちょっとだけワークショップを手伝っただけだが、実に考えさせられた。21世紀の社会システムへの「模索」を見た、という感じだ。全体をつらぬくコンセプトはFuture Readinessである。未来に備えるためにはどうすればいいのかを考える会なのである。
- 18:25 シンガポールが次にどうなっていくかは日本、韓国、台湾、上海、香港がどうなっていくかと非常に深く関係している。ヨーロッパの近代国家の枠組みを必死に学びながらも知的植民地になることなく、経済力をつけ今後どのような社会になっていくのか見当がつかない。一方で経済力は各自にに向上している。
- 18:32 最初はネットワーク参加だがPatrick Dixsonの話。不覚にもこの人のことを知らなかったのだが、未来学者である。2005年には世界でもっとも影響力のあるコンサルタントの一人としてタイムズ紙に掲載された。翻訳はないみたいだ。彼の話は非常にまともだった。量子力学的世界観である。
- 18:35 人口構造の推移とか大きな流れがメガトレンドとしてある。その流れのなかで様々な現象が偶有性(contingency)をもって存在している。そこでどのように意志決定していくかで未来が決まってくる。ある時点で未来が来た時、いままで意志決定してきた経路を振り返ると「歴史」の用に見える。
- 18:39 つまり未来を予測するというと現在を延長して考えてあたったはずれたと考えるが、そうではない、というのだ。http://pdixon.blogspot.com/が彼のblogだが面白い。そしてたとえば政治における意志決定は信頼Trustを元に行われる。
- 18:45 だが19世紀20世紀のシステムはもはや世界的にみて信頼を形成することが出来なくなってきている。では何が信頼を形成していくのだろうか。彼は非常にデジタルテクノロジーに期待をしている。http://www.globalchange.com/が彼のサイト。
- 18:47 デジタルネットワークコミュニケーションを考えてみると、ある時点で意志決定をするプレゼンテーションが行われ何らかの決定がなされると時間を遡ってある時点かが現在までの経路が生まれる。昔はそれを「歴史」と呼ぶ。だがネットワークのなかでは「情報」と呼ぶ。この微妙なところを上手く話す。
- 18:50 聞いていて、おお!!とおもった。凄いね。彼は例として世界中で高齢者が増えるという長期の展望がある。これは戦略として外すことが出来ない。だが何がどうなるかは予想predection出来ないのだとする。自分が今行動して未来と歴史が生まれる。このメッセージをどう受け止めるか。
- 18:52 IDEO上海のRichard Kellyは確実性のある未来と不確実な未来があると軽く話をうけたが、次のMichelle Guthrieは面白い受け方をした。彼女は香港とオーストラリアのあるメディアの会社のPlan Internationalの会長だ。
- 18:56 この組織は発展途上国の子供の活動を支援する団体だ。書き忘れていたがこのコンフェレンスは社会起業家の集まりである。国家がすることと市民がすることをあわせて次の時代を切り開こうという主旨でロー女史が始めた。Guthrie女史はこの職のまえは有名なスターチャンネルの重役だった。
- 18:58 彼女の話はおもしろかった。昔はテレビはチャンネルの数が少なくて何を見るかは決まっていた。選択の余地はなかった。だがいまでは100チャンネル以上のプログラムをCATVでは見ることが出来る。それは自分で選択するということだ。Flexibility 柔軟性が次のマインドセットになる。
- 19:04 次はZainul Abidin Rasheed氏。シンガポール政府外務省の高官だが、それ以上にシンガポール政府の国策の方向を考えている少数の大物の一人。少し前にKMDを訪問してきてその時にアテンドをした。NUSで経済学とマレーシア学を学んだ。
- 19:06 彼はアジアの国は今大きく変化しているという。消費者としての中産階級が各国で登場している。彼らは健康でリラックスをして豊かに暮らしたいと思っている。G20に世界の大勢が変わり、地域に力点がうつり、地域でのビジネスが大事になってくる。ここに新しい可能性があるという。
- 19:10 Rasheed氏の意見はまったくそのとおりだ。1年ほどシンガポールに頻繁に通い、またアジアの各都市をみると、新しい豊かに暮らしたい中産階級の勃興を痛いほど感じる。ここをしっかりと見る視線が必要というのだ。素晴らしいね。
- 19:16 次はFadi Ghandour氏。AramexのCEOである。この会社は中東と南アジアの物流の大手である。彼はまたアラブ人のためのオンラインコミュニティの会社 Maktoob.comの代表でもある。また社会起業家の支援も積極的に行っている。彼は未来は個人が大事になると言う。
- 19:28 あたりまえだって?そうでもない。政府は自分に都合の悪い情報を隠すことが出来なくなる。なにか重大なことが起これば直ぐに分かる。つまりコミュニケーションに新しい秩序が生まれている。なぜなら市民側に権力が移りつつあるからだ。したがってconnectivityが非常に大切。
- 19:31 質疑応答に入ってフロアの二人から強烈な質問がでた。一人は南米生まれの友人でスタンフォードを中途ででて世界中をうろうろしていまNUSで研究員をやっているカルロス。connectivity によってコミュニケーションから価値が生まれ、そこから新しい秩序が生まれてくる。
- 19:33 そうすると市民活動の意味が変わるのでは?と。次の質問はローさんに直接聞きたいが、21世紀に政府の役割はどうなるのだろうか、というものだった。「政府に関してはRasheed氏が詳しいから、」とロー女史は答えを逃げた。むむむ、彼女、古い感じの政治家だな。
- 19:55 さて、第二部のセッションはオーストラリアの外交官Penny Burttが司会で、Walt Mayoというアメリカ人で、発展途上国の市場に影響をあたえるために投資をする会社をやっている。
- 19:56 Narayan Ramachandranは社会的起業家に投資をする会社Unitus Capitalに創業者だがそのまえはインドのモルガンスタンレー銀行の代表だった。この二人はある意味20世紀の代表。発展途上国への援助の話と貧しさから脱却するためのインフラへの巨大投資を優先する。
- 20:00 こうした活動を社会が必要としている限り、近代国家の役割は無くならない。シンガポールもそうした時代があった。日本もそうだ。だが豊かになると他のことを考えないといけない。面白かったのはシンガポールの北西地区の市長Teo Ho Pin氏である。
- 20:02 さらに、北西市でThe People's Association のCEOを行っているYam Ah Mee氏である。Teo氏は市長の役割はソフトウェアだという。国がきめたインフラの投資によってできた都市のソフトウェアを受け持つ。それは具体的にはコミュニティ作りである。
- 23:50 GSIF続き:Teo市長は未来のコミュニティを作るのがシンガポールの各市長の仕事だという。stability, chohesiveness, happiness, platform for humanity, bondingなどの言葉が続く。Yan氏は北西市でサービスをしている。
- 23:54 シンガポールは上部が何を行うかを決定してそれを市民が実行する形で建国から国を運営してきた。21世紀のシンガポールの未来を考えるときにこれではだめだ。市民と価値を共有して希望をともに追求して行かなくてはいけない。Yam Ah Mee氏はもと軍人から社会起業家になっている。
- 23:56 僕はこの二人の意見がとても面白かったが、強烈な批判がRamachandran氏からでた。かれはインドのことを考えると基本的人権を守るために、安全な食物を作り、子供の教育をきちんと行い、子供の健康を守ることが何よりも大切だという。そのために合理的な計画を遂行すべきだと。
- 00:01 Teo 市長はコミュニティアクティビティを実行する方が大切だと述べて、噛み合わない。Ramachandran氏はさらに、社会資本なんてインドでは訳立たな い。これをうけてアメリカの社会起業家に投資をする会社のCEOMayo氏も、GDPが増えて皆アメリカ的生活がしたくなるのだと言う。
- 00:04 Yam 氏はマクロ経済学の方法では人間が生きていくために必要なものは与えられない。人間同士のsocial networkを作る上げることでコミュニティをつくりspiritualityまで考えなければいけない。Teo市長はシンガポールは家族コミュニティ を大事にする必要があるという。
- 00:07 Ramachandran氏は社会に必要なものは機会の平等だという。なんだか激論になった。フロアからの質問で、やはりカルロスが文化は文化で、南米ではいつも幸せでハイチの地震の時だって、幸せにしていた。で、それで言いということではない、という質問をしていた。
- 00:09 間をとりもつ質問をしたのが半分引退ですと言っていた投資家で社会起業家への投資を考えているとうWong Lin Hong氏だった。シンガポールは経済的にどうにかなったから社会資本を考えるときに来たというわけだ。
- 00:12 僕はこの対立が非常に大事に感じた。ほとんどコストがかからないインフラストラクチャーとしてインターネットが登場して人々がコミュニケーションを頻繁におこなって(つまりconnectivityのおかげで)社会資本を形成することができるようになっている。
- 00:13 そうすると経済発展をするために国が計画を立てて実行しそれを評価するという仕組みに個人が甘んじなくても良くなる。経済的繁栄と精神的な充実を同時に求めていくことが出来るわけだ。この選択はなにも豊かになったシンガポールだけが精神的な充実を求めていくわけではない。
- 00:15 資 本主義とデモクラシーの形が変わっていく。そして社会主義的な計画経済の必要もなくなっていく。そのとき国家の役割はどうなるのだろうか。この問題を直接 的に考える必要が迫っているなと思わせるセッションだった。稲蔭さんの司会ぶりも光った。上手に皆の意見を引き出していた。
- 00:19 シ ンガポールは小さい国であり、50年あまり近代化に向けて駆け抜けてきた。勤勉で質素に暮らし貯蓄をして資本を蓄積したシンガポールが都市計画に大胆に投 資して金融資本主義において大きく成長していくのは1980年代の半ば過ぎだ。町は大規模なショッピングモールに溢れた。
- 00:22 リー・カン・ユーは圧倒的に中国系が有利な社会において、いくつかの民族が平等になるように社会を運営した。植民地で二級市民の扱いをうけた屈辱を味あわせないよう社会を運営した。母語教育と英語教育を並行させて、高等教育になるに従って英語の比重を増やした。
- 00:23 犯罪の取り締まりを徹底的に行い、人権侵害の勧告をたしか受けたことがあるくらい厳しくした。シンガポールは非常に安全な都市である。熱帯病対策も徹底して行い、蚊の駆除をおこなった。豊かになった社会は日本も同じだが子供はあんまり頑張って勉強をしない。
- 00:27 ま た英語教育がすすむにつてて母語教育における文化の習得が薄れ、また優秀な学生は英語が非常にできるようになってアメリカに留学して帰ってこなくなる。大 学の時の成績が将来の出世を決める社会主義的制度がのこっているので、成績市場主義だ。で、次にひつようなのは創造性だと考えた。
- 00:30 こ れはシンガポールだけではなく日本も韓国も台湾も中国も創造性がないと言われる。お金があるので、アメリカやヨーロッパで「創造的」な活動をしている企業 や集団を何度も招聘した。だがお金をはらって(あるいはふんだくられても)創造性は獲得できなかった。資本のあるうちに次に出て行きたい。
- 00:33 これって痛いほどよく分かる。日本が名古屋デザイン博(バブルのど真ん中)を行ったとき、多くのアメリカやヨーロッパのデザイナーやコンサルタントに信じられないほどお金をはらっていた。僕はこの博覧会は随分発表したり準備をしたりで手伝った。
- 00:35 ある時、「どんどんお金くれるからもうかっちゃって」という軽口を耳にして、こいつらには創造性への飢餓がわからないな、と思った。とんでもないお金をはらってシンガポールにきてもらって、てきとうなことをしていく、そんな輩ばかりだ。
- 00:36 慶 應大学KMDはNUSと組んで、本当に創造性を育成する。その方向で頑張っているのだが、数値で計れる経済的成長という指標以外をなかなか信じられない。 これは日本も同じだね。哲学や文学、文化の研究といったことをする機運もなかなか盛り上がらない。だが創造性の必要は感じている。
- 00:39 計画をしてうまくいくようになったら文化や精神性をというのは20世紀の方法だ。コミュニケーションのコストが下がった現在、同時に考えて行かなくてはいけない。10月4日に行われた二日目の全体セッションはこのあたりが主題になった。
- 00:47 司 会はやはり稲蔭さん。連日ご苦労様。まずはClavinChin。中国で学生にローンをオンラインで貸し出している会社のCEO.新しい参加の方法が必要 で、それは話をよく聞くことと知識やマインドモデルや価値を共有することにある。つまり知財の問題をきにしていたらコトは進まないという。
- 00:55 C.Prior 氏。社会起業家の仕事を資金、仕事の方法、ネットワーキングで支援しているイギリスの会社UnLtdの創業者でCEO.オープンソースをつかってシステム を作り、状況に応じて扱う問題を変え、ソーシャルメディアをつかって過剰なまでに人とつながるソーシャルネットワークを構築する。
- 00:59 Brian Behlendorf氏はオープンソースソフトウェアを使った開発を行うコミュニティで活躍する起業家で、アメリカのthe USDepartment of Health and Human Servicesでアドバイザーとして働いていた。
- 01:04 その後2009年にホワイトハウスでOpen Government Initiativeに携わる。Mozilla FoundationとBenetechに役員として関わっている。
- 01:26 そ のURLはこれ。http://directproject.org/content.php?key=overview 医療の現場における情報のやり 取りに注目したもの。これはよく分かる。いまやっている医療プロジェクトでも結局FAXのやり取りが結構大事だったとわかり再考中だから。
- 01:31 無 理にコラボレーションしなくてもオンラインでつなげておくだけで良いと自分の考えを説明した。Randall Kempnerは著名なASPENインスティテュートの役員でマイクロファイナンスの会社ANDEのCEO.社会ネットワークはデジタル環境では作れない と保守的意見。
- 01:36 Sriram RaghavanはIncludeLabsの創業者でCEO.恵まれない人やコミュニティにネットワークを提供してサステイナブルにする活動を行ってい る。政府と国民の関係を向上させるためにインドでUnique IDをつけたりFoodSecurityを提供する。
- 01:38 な るほどね。国家が国民に呼びかけることが出来ないところを支援するコトも行えば、コミュニティがしっかりと子供を教育する仕組みを提供することも行う。な かなかすごいね。政府が情報をコントロールしている状態を好まず、ばらばらな情報を丹念に集めていけば必要な情報を構築できると考えている。
- 01:41 議論はオープンソースソフトウェアで情報共有の仕組みを共有して運営するときに情報や発信者の信頼をどのように構築するのか、という話や市民に情報を公開する話、制度的な連携より個人的な繋がりのほうが有効である話がでた。
- 01:43 また、完全な市場を前提として計画を立案して実行するのではなくて、具体的な政策の実施にあたり、コラボレーションを支援していく方法の有効性などが議論された。具体的に実行した事例から議論が進むのでかなり面白い。
- 01:45 空 間での人間関係における信頼の形成はface-to-faceの繋がりだ。将来の出来事に対する信頼の形成があり、そしてコミュニティにおける信頼の形成 は人間と人間がつながっていることにあるという。それを前提とすると大切なことはなにか、とBehlendorf氏が話を進める。
- 01:48 ソーシャルメディアによる信頼性の形成を考えるときに、ネットワークゲームなどの達人をベンチマークしてベストプラクティスを探るといったことをどうして行わないか、と問いかける。ネットワーク上のコラボレーションの達人なのだからというわけである。
- 01:50 Chin氏は教育システムはコラボレーションと矛盾するという。これは常々思っていることだ。先生が出した問題を解いて提出して「一人で解いたの」と聞かれて「友達と考えました」というと怒られるはずだ。これではコラボレーションは学べない。
- 01:51 ち なみにKMDのメディアデザイン基礎はグループで同じ点がつく。Prior氏は起業家について授業で幾ら学んでもだめだ、やってみないといけない、と述べ る。これもKMDのリアルプロじぇうとを作るときに考えた点だ。授業で学ぼうとする学生が多くそうした講義が提供されてないという声もある。
- 01:53 だ が、実際にプロジェクトを企画して企業の所にもっていけば駄目なことは直ぐ分かる。企業が協力の申し出をうけてくれたら、そこで評価されていると言うこと になる。かなりのことが学べているはずである。だが、こうしてみると、知財とか個人の評価といったこのがいらなくなるのが21世紀だ。
- 01:56 と いうわけでこのセッションも非常におもしろかった。創造性とコラボレーションの問題を突き詰めていくと20世紀社会システムのお約束が通用しない社会が登 場してくる。資本主義の先に見える世界が情報の共有とコラボレーションだとすると社会主義になってしまう。シュンペーターはそう思った。
- 02:00 だが、アジアでいま登場しようとしている資本主義は最初から知財の共有とコラボレーションを前提としても構わないような気がしてくる。インターネットによって提供されるconnectivityとmobilityを活用して民主主義と資本主義の関係を考え直す。
- 02:02 ま あその一方で国家資本主義の動きもあるわけだけど、国民が豊かになった日本やシンガポールではそれは難しいだろう。そして中産階級が国富の増大に喜びを感 じるのではなく、自分らしい豊かでリラックスした人生をもとめていくと、21世紀の国家像は大きく変わる。創造性はこうした社会再編の鍵だ。
- 02:04 以上シンガポールの会議のさわりを報告した。来年からはもっと深いところでインド、シンガポール、中国、韓国、台湾、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、アブダビ・ドバイあたりを視野に入れて創造的な民主社会を生み出す活動を続けていきたい。(この項 完)
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2010年12月5日日曜日
GSIF報告:Global Social Innovation Forum
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