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2011年6月3日金曜日

デザイン思考と経営戦略 2年プロジェクト終了 

  • Wed, Jun 01
  • 21:33  新規事業プレゼン終了。社長以下嬉しそうに議論してくれた。結果は聞いていないがおそらく決定。3年後にこのビジネスが始まるときに、ドキュメントとして本を出そうと思っている。それまではしばしこの件は沈黙。しかし、経営陣、よく決断した。日本からイノベーションが生まれるかも。
  • Thu, Jun 02 

  • 09:22  昨日の某社の新事業プレゼンテーションは2週間前から追い込みの準備には入り、事務所と大学の研究室でそれぞれ3時間近いレビューを行い、それをうけてたっぷりと時間を使って無我夢中で準備をしていた。本気で最後の指導をしたが、それをうけてタマを返してきたメンバーも立派。

  • 09:23  イノベーションとマーケティングは微妙な関係にある。iPodを生み出したのはイノベーションだが、iPodminiとかnanoなどはマーケティングだ。市場をイノベーションで生み出すと、その周辺には様々な可能性がある。そこはしっかりと拾わなくてはいけない。マーケティングが大事な理由だ。

  • 09:26  だがイノベーションは違う。ゼロから1にする。新しい顧客を創造するのだ。結局は哲学あるいはニーズを見つけることにナルのだが、顧客のニーズは表面から隠れている。観察しても質問しても得ることが出来るのはヴィジョンあるいはウォンツだ。ウォンツが解らなければ始まらない。だがその先がある。

  • 09:28  ウォンツをあるいはビジョンを具体的な形やサービスとして作ってみる。そして顧客のところに持っていく。そこから本当のイノベーションが始まる。ここで顧客の民族誌を書くことが出来るか、がポイントだ。顧客がいて仮説的なウォンツがある。だがそのコンテキストには様々な人が関係する。

  • 10:42  この関係性のコンテキストの中で顧客の「ウォンツ」が顕在化しているのだが、このウォンツの背後にあるニーズあるいは哲学を顧客が意識していることは先ずない。状況に適応して問題をその場で解決する方法を生み出していることがほとんどだから。このもつれをほどかなくてはいけない。

  • 11:02  ほどく方法はいろいろあるし、人によって向き不向きがあるから画一的にこのプロセスでとい言うわけにはいかない。だが、ほどけたあとは明確なニーズが見える。ニーズ先行でこじつける開発ではないところがポイントだ。このように見つけ出したニーズとウォンツを組み合わせると、アイデアが生まれる。

  • 11:09  地球を救えとか、発展途上国を支援しよう、というプロジェクトが難しいのはニーズが先行するからだ。メディカルのプロジェクトも、うっかりするとそうなる。いま欲しいもの必要なモノ、つまりウォンツを探していく。だが目の前のウォンツにしたがって商品やサービスを解決しても駄目である。

  • 11:15  多様なウォンツの中に隠されたニーズをみつけたときが勝負だ。僕の言葉でいうところの哲学とビジョンが適切に組み合わされたときである。そこが出来てくると次はアイデアをつくる。そして最初のコンセプトを作る。それを簡単なプロトタイプにして顧客に使ってもらう。

  • 11:26  このあと、非常に集中力が必要となる。スケッチブック一冊を使い来るくらいの作業が必要になる。スケッチは鉛筆でもダンボールや紙粘土でも、電子工作でもよい。ここの量が非常に大切である。この作業をおこなわないとちからのあるコンセプトは生まれない。さらにフィールドワークを繰り返す。
  • Fri, Jun 03
  • 05:47  フィールドワークを繰り返すうちにインフォーマントとのラポールが深まる。ここが民族誌を活用してデザインを行うところの一番の醍醐味である。顧客を参加させるデザインはラポールが成立していない限り意味がない。

  • 05:49  それはデザインするものがインフォーマント(潜在的顧客)のメンタルモデルを反映している必要があるからだ。メンタルモデルを調査者もインフォーマントも意識することは出来ない。観察記録を分析して「解釈」するしかない。観察する対象が複数のステークホルダーを含んでいるとそれは非常に複雑。

  • 05:52  なので何度も作っては現場に持っていって試す。試してインフォーマントに意見を聞く。この繰り返しが参与型デザインである。ここでQ&Aを持ち込んではいけない。それを繰り返しているうちにデザインしたメンタルモデルがインフォーマントの持っているメンタルモデルと一致する。

  • 05:54  この瞬間がメンタルモデルが出来たときである。複数の人間が関わり、インタラクションを多用する現在の商品開発が必要とするメンタルモデルは簡単な形をしている(これがメンタルモデルの条件)が非常に複雑でダイナミックに変化するコンテキストの中に存在している。

  • 05:56  これが見つかればあとは、何をどのように説明していくかを普通に論理的に説明すればいい。企業相手にデザイン思考のコンサルティングをしていて、クライアントである企業のメンバーをここまで追い込むことはあまり出来ない。

  • 05:58  だが、今回のプロジェクトでは、社内にプロデュースを担当する別会社があり、一連のコンサルティングが終了した後、もう一押しするように依頼されて、2回特別のワークショップをした。その結果、見事にメンタルモデルを見つけ出した。

  • 06:00  メンタルモデルはインフォーマントの中にあるが、それを作ったデザイナーのものでもある。したがって、インフォーマントとデザイナーの共同作品だ。このようなレベルの高いメンタルモデルができると、インフォーマントが積極的に参加してくる。喜んで写真やビデオに写ってくれる。

  • 06:02  コンセプトらしきモノが出来てからメンタルモデルを内在している本物のコンセプトになるまでの道には厳しいものがある。だがそうして出来たコンセプトをもとした製品やサービスは「生きていて」それをつかって生き生きとした物語を作ることが出来る。それを聞いた経営陣は安心して意志決定出来る。

  • 06:04  さらにセールスピッチのプレゼンテーションと決定的に異なるところがある。こうしてつくったコンセプトを聞いて、技術開発担当の役員が「これは僕が作りたい」と発言して、早速頭の中で製品の設計を始めた。どのような展開になるのかイメージできたためだ。デザインが企画になり設計になった瞬間だ。

  • 06:06  そして企画提案者自身が登場人物になっていたところが素晴らしい。ペルソナを作ってシナリオを書いて作業を進めていくのだが、そのうちに登場人物と自分が一緒になっていく。インフォーマントとの生活世界が構築されて、そのなかでデザインしたものやサービスが展開するシナリオが生まれる。

  • 06:09  このようなイノベーションの企画を無事立案したチームを見ていて、ゼロから一にする最後の一押しをすることの必要性を感じた。デザイン思考を経営戦略に位置つけるには、マネージメントの問題が非常に大事なのだなあと痛感した。人間がもっている創造力を信頼してブレークスルーまで諦めない。

  • 06:11  これからまだまだ開発のプロセスがあるので今回のプロジェクトがビジネスとして成功するかどうかは予断を許さないところがある。だが無事開発が出来れば、近いうちに市場に画期的な製品が投入されるはずである。

  • 06:21  おまけ:メンタルモデルはすでにある製品やサービスを分析して見つけることも出来る。もうずいぶんと前だが、NTTの研究所のあるひとがP2Pを基本とした新しいネットワークシステムとサービスの発表をした。これは本にもなっている。

  • 06:23  発表後、「武蔵野の研究所で仕事が終わって、三鷹の駅で飲んでから帰ろうと思うけど、どの店が開いているか、タクシーはどう呼べばいいか、雨降るのかなあ」みたいな用途なんだけどなあ」と聞いたら「どうして解るんですか!」と答えた。結構透けて見えるんだよね。

  • 06:27  何を作るのかという問題と技術を摺り合わせるときに、技術者の世界が公共性をもっていないと、結局自分の世界にあわせてしまう。安心安全とかもっともらしい言葉がついていてもその背後の世界はその哲学と関係ないことが多い。このような開発をしてはいけない。技術に別のコンテキストを与える。

  • 06:28  そうすれば新しいメンタルモデルがうまれて、イノベーションが創発される。これは日常世界から隔離された郊外都市に研究所を持つ多くの日本のメーカーの抱える問題でもある。21世紀の開発は日常世界のなかで行われなくてはならない。コンセプトメーカーに面白い話を聞いている場合ではない。

  • 06:42  コンテキストからアイデアはでてくるのであるが、始まりは何もない。なので皆であつまってアイデアを共有する。ブレーンストーミングだ。それぞれが異なったコンテキストで生きているのでそこそこ面白い。だが5名で90分もすれば大体アイデアは飽和する。

  • 06:44  次に異なった種類の雑誌を色々読んだり、WEBサーフィン(死語?)したりして情報を集める。それを引き出しに入れる。いわゆる物知りというかそんな感じ。これも非常に大事。この引き出しからいろいろとアイテムを取り出して考えてみる。アイデアを作るための第2ステップ。これも大事。

  • 06:45  20世紀のものつくりはこのくらいのレベルでイノベーションが起きた。だがインタラクションから新しいメディアへとものつくりの領域が広まるにつれて、アイデアを作るコンテキストの拡張が広がった。インタラクションデザインのフロンティアを切り開いたクーパーやIDEOが積極的に民族誌に出た。

  • 06:48  電子機器やネットワーク端末のデザインは日常世界の観察を基本にする。これがここ10年の方法論だ。民族誌を描き、あたらしいコンテキストを獲得して、そこを基盤にアイデアを作っていく。ここが非常に大切である。社会性とか公共性とか言ってもいい。社会的大義のあるニーズを主張することではない。

  • 06:49  デザイン思考は社会性をコンテキストに持ち込むレベルで大きな役割を果たした。だがユビキタスコンピューティング、ウェアラブルコンピューティング、AR技術の発達は全く新しいコンテキストを我々に提示している。それは無意識世界である。

  • 06:51  今回OIKOSグループでの研究を選択したKMDの諸君にはこの世界まで研究対象を広げてもらいたい。ディープエスノグラフィーと呼びたい世界である。無意識の世界はいままでずいぶんと研究されているが、なんだか妙な研究が多い。それが大きく変わったのはやはりセンサー技術の進歩だ。

  • 06:54  人間が無意識に行動している現象を記録することが出来るようになった。また行動経済学のように無意識な行動を調査して経済活動と結びつける研究もだいぶ進んできた。AI的な考え方をしない認知科学の領域もだいぶ進んできた。

  • 06:55  台所から食卓、リビングルーム、オフィスから遊園地、ショッピングセンターから病院。手術室。飛行機のコックピット。人間は環境と共生して生きている。この世界をコンテキストとしてアイデアを生み出しイノベーションをすることが出来る。我々の日常世界はワンダーランドなのだ。


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