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2011年1月25日火曜日

d.school訪問記


  • Sun, Jan 23

  • 17:45
      d.school訪問(1)いまさらなのだが、始まって5年目になるスタンフォードのd.schoolを訪問した。準備段階からいろいろと話しは聞いていているのでなんとなくわかった気になっていたのだが、今回小林茂さんと訪問した。案内していただいたのはBernard Roth教授。

  • 17:47  (2)Roth教授は機械工学の専門家でキネティクスとロボティクスの領域で大きな業績を挙げているが、それに加えてニューヨークリベラル知識人として筋金が入っている。d.schoolはビジネススクールに変わるものとして構想されたと言うが、いまは少し違うようだ。

  • 17:50  (3)結論から言うと非常に感動した。デザイン思考の使い方としてかなり斬新だと感じた。デザイン思考を現代社会が直面している貧困の克服に活用する。西洋型の資本主義が産み出したあるいは吸収できなかった貧困の問題を直接的かつ局所的に解決する。

  • 17:53  (4)僕はデザイナーが環境問題や貧困問題を解決する提案をするのが嫌いだ。それは独りよがりであり実際に解決するかどうかの検証もないものが多いからだ。省エネデザイン提案なんて自己満足で恥ずかしい。ところがd.schoolでの学生のイノベーションは直接的に効果をもたらしている。

  • 17:59  (5)例えばd.light http://www.dlightdesign.com/  d.lightは太陽電池によるLED照明でケロシンランプにとって変わり火災や空気汚染を防ぐ。大量に途上国で売れているという。

  • 18:01  (6)あるいはembrace http://embraceglobal.org/ embraceは赤ちゃんの保温に使う。コストが安く効果があるので、多くの未熟児の命を救う。これも評判になっているという。

  • 18:03  (7)あるいは足でこぐポンプがある。投入する労働時間に対して汲み出せる水の量が多く、耕せる土地が広くなり、家族が自給できるようになる。要するにイノベーションの目的が明確でその効果もしっかりと定義されている。具体的に観察をしてみなでプロトタイプをいくつも素早くつくりながら模索する。

  • 18:06  (8)医学部生だったり経済学を勉強していたり法律を学んでいたり機械工学を身につけている学生(あるいは社会人)がd.Schoolというデザイン思考実践の場所で問題解決をイノベーションして、それを企業化して社会に普及させる。この馬力はすごい。世界中から優秀な学生が留学生としてくる。

  • 18:08  (9)彼らの祖国が抱えている問題をデザイン思考で解決していく。小さな問題だが確実に解決して、その解決策が継続するようにビジネス的な基盤もつくり上げる。コラボレーションしてつくりながら考える環境を提供して、徹底的にフィールドで観察する。

  • 18:10  (10)一年に10個ビジネスになる問題解決をする。実践的な問題解決の方法とその維持システム(経済的に自立させる)を全スタンフォードで模索するためのハブがd.schoolなのだ。デザインそのものはacceptable designという考え方だ。無駄がなく丈夫であることが大切。

  • 18:14  (11)d.schoolは当初、大企業が直面しているイノベーション能力の枯渇を同解決するかを目指していた。だが実際に活動を続けるうちに現在のような方向性を見つけてきた。P&GやGEのような巨大企業は独自にデザイン思考を採用して競争力を復活させた。

  • 18:17  (12)ちょっと余談になるが、21日Palo Altoに向かう車の中でデザイン思考を経営戦略に採用したゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト氏が最近経済再生諮問会議の議長に指名されたというニュースが飛び込んできた。デザイン思考の経営戦略への影響は明確だ。

  • 18:20  (13)だがスタンフォードのd.schoolはこちらの方向に舵を切らなかった。社会起業家の方向に向かっている。ハーバードなどが強烈にもっていた(いる)社会的正義の実践をスタンフォード大学が行なっている、というのはアメリカの知識人のエコロジーを考えると奇妙な気もする。

  • 18:25  (14)いま地球全体が直面している様々な問題をどのように解決していくのか。本気で解決するのならインパクトのあるイノベーションで行おう、というのがd.schoolの主張のようだ。20世紀モダン社会を創りだした公衆衛生などの問題意識が通用するところには有効だろう。

  • 18:28  (15)だが21世紀にモダン社会をつきぬけてしまった僕達の社会がいま抱える問題はどうしてくれるのか?哲学や倫理の根幹をデザイン思考を通じて深く問いかけることも実は必要なのではないだろうか?極端な話だが、健康に生きることも大切だが幸せに死んでいくことも不可欠なのだ。

  • 18:30  (16)いずれにしても、ハブとして機能していて、自己中心的になりがちなエリート学生に社会的責任を教える道場となっており、しっかりとした成果が出る体制になっていることにはびっくりした。20世紀経済体制の救世主の役割は別の集団に託されるのかなあと思ったりした。(完)

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